Front Cover
BeKa (Scénario), Camille Méhu (Dessin, Couleurs), Filles Uniques, tome 2 : Celeste, Dargaud, 2022.

5人のリセエンヌが「はみ出し者クラブ」を結成して互いに助けあうシリーズ物の第2巻。嫌がらせを受けて困っているセレステを救うべく奔走するというのが主な内容。しかし、本編とは関係のないエピローグの中身のほうが遥かに衝撃的で、本編の物足りなさを補って余りあるほど。このシリーズのストーリーはおそらくこういう方向へ進んでいくんだろうと高をくくっていた読者の予見や期待を良い意味で裏切るものになっている。

このシリーズは最初の巻がパロマ、この第2巻がセレステと副題がついているように巻ごとにスポットライトの当たるキャラクターを替えて掘り下げるという構成になってはいる。それでも第2巻ではっきりしたのは、作者が必ずしも杓子定規にキャラクターごとのページの割り振りをそれぞれ対応する巻に収まるよう限定しているわけではないということだ。第1巻ではみ出し者クラブの努力によって救われた(ということになっている)パロマはもうお役御免ということにはならず、かなり有意義な補足がなされている。単なる後日談に留まらず、新しくパロマの後見人となった人物に注意を向けさせることによって、パロマが他人を信じるという判断を下すことのできる明らかな成長がうかがえるようになっている。

いったん脚光を浴びたキャラクターがそののち単なる脇役に押しやられることなく、適宜話の前面に出てきてさらに掘り下げるという構成は理屈からすればたいへん結構なことだろう。しかし、実際にこの第2巻で行われたパロマへのフォローアップ的な描写は第1巻におけるストーリー上の理不尽さを確定させるものにもなってしまっている。新しくパロマの後見人となったアドリアンは、かつてリゼロッテのもとで生活していた過去がある。ちょうどパロマと同じ条件だ。劣悪な家庭環境のせいで荒んだ生活を送っていたアドリアンはリゼロッテによって救われたと言える。何が問題なのかというと、リゼロッテはアドリアンに対して率直に向き合い、かなり内心にまで突っ込んだ分析をしてみせることでアドリアンを改悛に至らせることに成功している。にもかかわらず、同じように内心にまで踏み込んだ関係をパロマとのあいだには一度も持とうとしなかったということが確定してしまったということだ。リゼロッテにとっての二人の里子、はじめはアドリアン、そののちのパロマという前後する順序を思えば、そうとう奇妙なことだ。頑なな態度のアドリアンを改悛させることのできた方法をなぜパロマの時には取らなかったのか? 第1巻のレビューで指摘したことだけれども、それはリゼロッテとパロマとのあいだのやり取りで問題が解決してしまったならば、はみ出し者クラブの出番がなくなってしまうからという単なる制作上の勝手な都合にほかならない。具体的な箇所でいうと、この第2巻の39ページにおいて1ページ丸まる使ってリゼロッテがアドリアンに詰め寄って本人が気づいていない内心に踏み入って分析する鮮やかで感動的ですらある献身的な説教の一部始終が明かされている。皮肉なことにこの場面は現在の時点においてアドリアンがパロマに語って聞かせる昔話として描かれているということだ。いったいパロマはどんな気持ちでアドリアンの話を聞いていたんだろうか?どうしてリゼロッテはアドリアンの時と同じやり方でわたしに直接向き合ってくれなかったんだろう? どうして1年以内に友達を作れという変な約束を結ばせるだけであとはわたしをほったらしかにしたんだろう? と疑問を抱くのが普通じゃないだろうか? アドリアンの話のまさに核心の部分に耳を傾けるパロマを終始無言のまま貫き通すことで作者は本来なら当然予想されるパロマの反応に触れることなくごまかしている。

引用画像その1
クラブの一員となっても決して穏やかではないセレステの心象風景

本編の中心となる出来事は、セレステに対して嫌がらせをする犯人をクラブのメンバーが追い詰めるというもの。セレステの受けている嫌がらせはリセの校門前で待ち伏せてあれこれ難癖をつけてからんでくるいじめっ子二人によるものと、もうひとつがスマホにマインドコントロール的なメッセージを送りつける謎の人物によるものの二つだ。前者の素朴ないじめっ子の件はクラブのメンバーが人脈を頼りにあっけなく解決してしまう他愛のない事件だ。後者のネット越しにセレステを苛む謎の犯人については、まあ意外な人物が犯人だろうと言われればそうだけれども、少しもおもしろさを感じさせない。なぜかと言えば、犯人のやっていることにリアリティが乏しいからだ。まず、この犯罪はセレステが契約しているスマホの会社に連絡を取るなり、警察に届け出るなりすればすぐにでも犯人が特定される簡単な事件のように思える。犯人がそんなことも予見できないほど愚鈍だとは信じがたいし、身元がバレる足跡を残さないほど高度なスキルの持ち主にも見えない。それにそもそもこの犯人はすぐに足がつくスマホのような道具を使わずともセレステにいくらでもメッセージを送る機会に恵まれた状況にいる。なぜ犯人にスマホのメッセージ機能を使わせたのかといえば、ケロニアのハッカーとしての出番を確保するため、ただそれだけのことだろう。バカバカしい。

クラブのメンバーが会合においてどうして警察に届け出るという提案を却下して自分たちだけで得体のしれない犯人を追い詰めようとする判断を下したのか? それはそうでもしないとこの巻においてクラブの面目躍如とした活躍を描く機会がなくなってしまうからという、ただそれだけのことだろう。バカバカしい。第1巻のパロマの救済の件と同様、助けを必要としている少女の本当に窮地に追い込まれている様子をまざまざと描いておきながら、その問題を直接に解決することのできる方法をわざわざ回避して強引にはみ出し者クラブの手柄にしてしまいたいという恣意的に話を進めようとするゴリ押しが相変わらず気に入らない。

具体的に真犯人を特定して追い詰める過程もかなりお粗末なものだ。クラブのメンバーが初めて出入りする家屋でそこの家人に一切気づかれることなく犯人のいる部屋までたどり着き、決定的な場面を証拠として目撃し、なおかつ侵入を悟られることなく無事に脱出することが出来てしまうというスパイ映画さながらの嘘くさい活躍を心の底から応援しつつ読み進めるのは至難の業だ。

第1巻の一部のページにおいて、意味深だけれども作者の意図の汲みがたい不可解なセレステの描写が見受けられる箇所があった。そのうち、彼女の自傷癖かと思わせたものについては実はそうではなく、単に作者がミスリーディングを誘ったものだということがこの巻で明らかになっている。しかし、ケロニアの家の台所でセレステの目つきをクローズアップで描いたり、歯ブラシの入ったコップだけを描いたりした一連の箇所についてはいまだに意味不明で、単純に著者の狙った何らかの意図が失敗しているようにしか思えない。

場面に応じて色調を次つぎと変えるカラーリングの魅力は前巻と同様。また、色の選択に留まらず、描線のタッチを劇的に切り替えることでその落差を効果的に利用している。通常のクリーンでシンプルな描線が、荒っぽくかすれたようなタッチになることでセレステの暗鬱とした心情に読者をいざなう。すなわち理不尽だけれども本人が受け入れてしまっている自虐的な心情が外目からはまったく気づかれないという絶望的な心情の実際のありようを読者に教えてくれる。こういう気の毒な人はそこら中にいて、しかし外からはうかがい知ることが出来ないものなんだと。まるでくたびれ果てた中年女のようにやつれたセレステの顔を描いていて、つまり美少女を美少女として描くことにこだわっていないことも気に入った。

引用画像その2
Guys literally only want one thing and it's fucking disgusting

主要な登場人物であるはみ出し者クラブのメンバーであっても、顔かたちの造形が必ずしも安定していないのは前巻と同様だ。本来ケロニアは瓜実顔と言っていい美人の顔立ちだと思うけれども、ところどころ顔が縦に伸びたり縮んだり、目の高さのあたりでほかよりくぼんで見えたりと結構安定せずに妙な顔で描かれているコマが多い。感情を押し隠すことを知らないシエラの激昂振りはこの巻でも健在でこのキャラクターは見ていて飽きない。

引用画像その3
ケロニアの狂気の沙汰が明かされる実質的なクライマックス

前述したように、この巻は本編よりもエピローグが衝撃的であり、この部分を読んでしまったらどんな読者でも続巻に手を出さずにはおけないだろうと断言できる。このエピローグを僕が大いに気に入っているのは、ケロニアが初登場したときに僕が感じた胡散臭さに応えるものであり、女の団結は素晴らしい、女の友情は素晴らしいとひたすら連呼せんばかりのはみ出し者クラブのゴリ押しが気に入らないという僕の不満に応えるものだからだ。ケロニアがセレステに明かした秘密はとんでもないものであり、無私無欲で人助けに奉仕するかのようなクラブのリーダーとしての顔の裏には何か野蛮で独善的な狙いが潜んでいると読者に請け合うものだ。また、そのケロニアの明かしたとんでもない秘密を知ったセレステがまったく動じていないという事実もおもしろい。この気の毒な少女はやっと洗脳が解けたと思ったら、その洗脳を解いてくれた恩人によって新たに洗脳されてしまったとでも言うべき急転回を見せている。しかし、クラブのほかのメンバーはケロニアの秘密を知ったらどうするだろうか? 普通に考えてその事実を諾諾と受け入れるとは到底思えない。したがってメンバーの間で対立や裏切りのような展開もじゅうぶん予想される。仲間外れになった女たちが結束して助けあおうというクラブの当初の理念はそりゃ結構なことだけれども、現実世界で物事はそんな単純にきれいごとばかりでは動いていかない。クラブの面々が一枚岩ではなく、ひとりひとりの生い立ちや考え方の違いに応じて本音でぶつかりあう、そういった展開こそ僕が本来この作品に期待したいものだ。

第1巻を読み終えた時点で僕がこの著者をちょっと侮っていたということは認めなければならないだろう。パロマの救済の仕方があんまりだと落胆したからだ。その考えは今でも変わらないけれども、ケロニアというキャラクターをめぐるもう一方の大きな不満についてはどうやら解消されそうだと期待できる。もっとも、実際にこの先その期待に本シリーズが応えてくれるかどうかは読んでみなければわからないけれども。

Filles uniques, tome 1: Paloma

BeKa (Scénario), Camille Méhu (Dessin, Couleurs), Filles uniques, tome 1 : Paloma, Dargaud, 2021. いつも不機嫌で誰とも打ち解けようとしない偏屈な少女が、リセで知り合ったほかの少…… Continue reading