Front Cover
Milla Paloniemi, The Cursing Hedgehog, Sammakko, 2011.

Kiroileva siili というフィンランドのコミックストリップの英語版。英語圏ではないフィンランドの出版社が自ら英語版を出しているという珍しい例の一つ。ことあるごとに悪態をついてばかりいるハリネズミの思うようにならない生活振りを愛らしいキャラクターでもってユーモラスに描いている。

読み始めてすぐに気づいたのは、この主人公のハリネズミが些細なことでいちいち大げさに癇癪を起こし、それ自体でまともなオチがついているかのように扱われているという奇妙さだ。まるで作者が初めからパターン化されたものしか描かないと自身に制約を課しているかのように感じられた。身もフタもないことを言えば、たいしておもしろくないネタを大袈裟なハリネズミのリアクションでもって強引にオチがついたかのように仕立てているといった印象が否めなかった。少なくとも読みはじめた当初は。

作者が多用するユーモアの根拠となるアイデアは、ハリネズミの野生生物としての特徴と人間的なライフスタイルとの組み合わせから必然的に生じる矛盾を利用したもので、まあはっきり言って他愛のないものだ。読んでいて恥ずかしくなるほどではないものの、漫画というメディアを使って野生生物の生態や特徴を説明しているだけじゃないかと突っ込みたくなることもしばしば。

引用画像その1
溺れているハリネズミに浮き輪を投げてやったらどうなるかというようなベタなユーモア

オチの部分でハリネズミが口汚く悪態をつくものばかりという意味では全体的にパターン化されていると言えるけれども、その様式の中で時折こちらの意表を突いてくることもある。声に出して笑いこそしないものの、素直におもしろいと言えるものもある。そしてそういったおもしろいと思えるものを僕がピックアップすると、例えばフィクションのキャラクターであることを主人公自身が承知している発言をしてしまうような、ナンセンスなユーモアばかりになってしまう。

引用画像その2
作者に文句を付けるキャラクター

作中には何匹ものハリネズミが登場するけれども、皆が皆主人公のように口が悪いわけではない。アフリカから来たハリネズミ、都会に住むサングラスをかけたハリネズミなどは決して悪態をつかない。その一方で、普段から主人公の身の回りにいる脇役、すなわちガールフレンド的なポジションのハリネズミや主人公のお婆さんであるハリネズミは彼同様に口が悪い。作者はフィンランドの現代社会から典型的な人間関係における調和の難しさという問題を反映させているのかもしれないし、単に自分自身を反映しているだけなのかもしれない。いずれにせよ、この主人公の癇癪の起こし方のバリエーションからは、明らかにティーンエイジャー的な未熟さと、その未熟さを認めて成長しようという意識になかなか至らない未熟さという二重の意味の未熟さがこめられていることが見て取れる。

引用画像その3
互いに惹かれあってはいるものの、口の悪さが災いしてなかなか思うようにはならない

他者を口汚く罵ってばかりいるこの主人公に読者がいくらかでも親近感を覚え、裏表紙に書かれているように本作のオリジナルがフィンランドでベストセラーになったことは、そういった主人公の造形に根拠があるんじゃないだろうか。