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Pain de viande avec dissonances

Pain de viande avec dissonances par Zviane
  • Pain de viande avec dissonances
  • Auteur: Zviane
  • Editeur: Éditions Pow Pow
  • Date de parution: novembre 2011
  • Format: 20.9cm x 15.9cm
  • Reliure : Broché
  • ISBN: 9782924049006
  • 152 pages
  • $22.99

レビュー

ケベックのバンドデシネ短篇集。いわゆる 24-Hour Comics Day に類するイベントの際に描かれたものが元になっているようだ。5本の収録作はいずれも奇想的なアイデアに基づいたショートショート風の作品で、結末において読者を煙にまくような一癖あるタイプのものばかり。『不協和音の混じったミートローフ』という妙なタイトルは、音楽に造詣が深い著者自身の志向とともに収録作の作風をも端的に表している。

Excerpt A
Un incroyable talent

一つ目の Un incroyable talent は、料金を取って乾燥機の中で回る洗濯物を見せることが観客に感動をもたらす何かの展示会や博覧会のような興行として成立しているという設定に基づく話。長蛇の列に加わって番を待つ一組のカップルと、乾燥機に洗濯物を詰める興行側の家族の双方の視点から、この奇妙なイベントを描いている。カップルの片方の女の子は彼氏に誘われてしぶしぶ来てみたものの、回る洗濯物を眺めておもしろいはずがないと疑っており、浮かない面持ちで行列に並んでいる。いっぽう、興行側の家族のうちでいちばん腕利きとされている娘は家族ぐるみで担っているこの仕事に意義をまったく見出せず、やめて独立して別の仕事をしたいと考えている。このふたりはこの奇妙な設定の作品世界において読者と同じ立場にあり、すなわち「金払って乾燥機の中で回る洗濯物なんか見て何が楽しいのか?」という素朴な疑問を共有している。ところが、結末に至ってふたりの立場は分かれている。興行側一家の娘は父親に一喝され、しかたなくこれまで通りの自分の仕事に戻るが、カップルの女の子のほうは実際に回る洗濯物を目の当たりにすると呆けたように見入ってしまう……。作者は回る洗濯物をことさら感動的なものとして絵的に描こうとしていない。つまり、読者の視点からはなんだかわからないけどそれは感動を催すものだということになっていると受け止めなければならないわけだ。ここまで来てすべての読者はあっけにとられるんじゃないだろうか。作者は一体何が言いたいの?といった感じで。あえて筋の通る解釈を加えるなら、伝統芸のような職人の技の神秘は見た目の滑稽さからは容易に図り知ることが出来ず、実際に体験しなければわからないとか、また職人自身でさえその価値に気付かないほど深遠なものだとか、そんなところになるだろうか。率直に言えば、まじめに解釈を加えるのはバカバカしいというのが僕の本音だけれども。ただ、あえて一つ言うべきことがあるとすれば、最後の場面の締めくくり方になるだろう。観客として来ているカップルの双方、すなわち半信半疑だった彼女と当初から乗り気だった彼氏がともに目の前の洗濯物に見入ったまま、自然と互いに腕が伸び、そして手をつなぐことで話が終わっている。感動というものが体験としては個人的なものでありながら、思わず知らずに対的な絆を求めさせるということにはじゅうぶんな真実味があって、むしろ絵的なバカバカしさはその内面の世界を際立たせるためなんじゃないかとさえ思えてくる。感動とはそういうものだという作者の立場や思想の表明だというのならば同意するけれども、この作品が漫画としておもしろいかどうかというのは別の問題だ。

本作は比較的古い時期に描かれたものらしく、まだ人物の顔が単調な描き分けにとどまっている。立てたゴマのような眼は没個性的で弱弱しい。背景も白い部分が目立ち殺風景で、風変わりな作品世界に説得力を持たせるような補足的状況の描写で満たすような工夫があってもよかったんじゃないかと思える。

Excerpt B
Les tarifs vont augmenter

二つ目の Les tarifs vont augmenter は、頭がケーキになっている男を自分の部屋に連れ込んだ訳あり女の話。ほどなくしてベッドインにまで至ったふたりは疑い深い男の誤解からあえなく破局へ……と思いきや、実は女には隠していた事情があって……という話。男の頭部がケーキで出来ているということそのものに意味があるわけではなく、何らかの身体的な特徴、とくに性的嗜好の対象となりうるような特徴のメタファーとして捉えるべきなんだろう。絵柄のせいもあって、表面的にはそれほどどぎつい印象は受けないけれども、男女の性を逆転させ、頭部のケーキを現実的な何らかの身体的特徴に置き換えてみたならば、相当におぞましいことがおこなわれているということに誰もが気付くはず。しれっとした女の態度に加えて、「観客」と「主催者」たちの暢気なやり取りと真実とのギャップにギョッとさせられるけれども、まあそれだけという感じだ。

Excerpt C
Art floral

三つ目の Art floral は収録作のなかでもっとも楽しく読めた作品。病院で診察の番がまわってきた患者の番号を呼ぶ際に、リアルタイムの混声二部合唱でもってその番号を歌い上げるシステムになっているという奇妙な設定の話。初め互いに言い争う四人の男女のやりとりが描かれ、それが単に番号を歌い上げるだけの仕事に携わる者同士のいがみ合いであることがわかり、さらにその仕事が国家資格のようなステータスを伴う職業であることがわかる……というように作品世界における彼らの職業の設定が明らかになっていく過程で当事者たちの真剣な張り合いっぷりのバカバカしさが増幅されていくというところに、わかりきったバカバカしさを真面目にやりとげるコントを見るような楽しさがある。ただ、わからないのはオチの部分で、歌唱隊の皆にとって憧れの的である院長が実は裏の顔を持っている……というような仄めかしの描写がいったい具体的に作品世界の中でどんな意味を持っているのか、僕にはさっぱりわからない。少なくとも、普通に受付担当がマイクで単純に番号を読み上げるのではなく、わざわざリアルタイムの合唱にしているということの合理的な理由に結びつくようには考えられない。このオチの部分さえ納得のいくものだったならば、すっきりと全体を受け入れることが出来たんだけれども、全体的にはよくわからない話ということになってしまう。四人の歌唱隊が互いに批判しあう辛らつさを表す表情や身振り手振りはとてもよく出来ていて、本作がもっとも著者の技量の熟達した新しい作品であることが見て取れる。

四つ目の The show must go on はセリフのない作品で、収録作のなかでは最もわかりやすいものに違いないといえる。海賊として帆船に乗って財宝を求めてロマンのある冒険をする女と、ネクタイを締めタイムカードを押して公共の場でニコニコと媚を振りまきながらフラフープをすることが仕事になっている男のカップルの話。職業上のジェンダーを逆転させているのは明らかだけれども、海賊が跋扈した大昔とモダンなオフィス生活とでは時代が離れすぎているのも明らか。男と女の立場を入れ替えたところで現代社会において男女が互いに抱く相手の価値観への不満は解消しない……といった感じの作者の主張を見出せばいいんじゃないだろうか。というか、ほかにどういう解釈が成り立つのかわからない。おもしろいかと問われれば、別におもしろかないよと答えるほかにない。

Viser Timo Scheider は、あこがれのカーレーサーの下積み時代にならって自身も同様に列車の車内販売をする女の話。少年時代にミキサーの売り子で糊口をしのいだというティモ・シャイダーは、同名の実在するカーレーサーから名前を借りただけでエピソードについてはおそらく架空のものだろう。顔つきからしてまったく違う。主人公クラリスはティモ・シャイダーにならって列車内でテニスラケットの販売をしてお金を貯め、いつか彼のレースを見に行くことを夢見ている。同様に車内で売り子をするトキという男との出会いと別れが物語の中心になっている。列車の車内販売でミキサーだとか、ラケットだとかを誰が買うんだと疑問に思ってみても仕方がない。これはそういう奇妙な設定の物語だということになっている。問題はトキに対するクラリスの心情の変化と、やがてトキが姿を消してしまうということをどう意味づけるかということにある。はっきりいってこれは僕には作者の意図するところがよくわからない。カーレーサーへあこがれて下積み時代を続けるような自分の人生の針路の選択ということと、男と女の結びつく運命的な関係は必ずしも両立しないといったようなシニカルな人生訓とでも受け止めればいいんだろうか。この解釈についてはほとんど僕はさじを投げざるをえない。憤慨しているのか笑っているのか曖昧な表情の施し方といい、売り子のコスチュームが少しもそれらしくない適当なものである点といい、少なくとも絵的にいちばん拙い作品であることは間違いない。

これまで見てきた限りではいわゆる 24-Hour Comics Day や、それに類するイベントに僕はあまりいい印象を持っていない。僕が関心を持っている海外の漫画家の何人かがブログなどでアップロードした画像を見たことがあるけれども、事前に周到なネタを仕込んでくるような一部の漫画家を除いて、自身の無味乾燥な日常生活をそのまま切り取ったようなものを見せられることが多いからだ。「描くことがなければ描かなきゃいいじゃねえか」としらけてしまう。本書に収録された作品はどれも即興で思いついたはずのない奇抜なアイデアに基づいてはいるけれども、その奇抜さに何らかの説得力を持たせるのに失敗しているか、あるいは作品のテーマが他愛もなくて詰まらないか、僕にとってはそのどちらかでしかないものばかりだ。不協和音はじゅうぶん耳についたけれども、ミートローフを食べた気にはなれなかった。

Rating
5/10