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Raising Amy

Raising Amy by Stref': Cover
  • Raising Amy
  • Author: Stref'
  • Publisher: Markosia
  • Publishing Date: December 2011
  • Size: 24cm x 16.3cm
  • ISBN: 9781905692620
  • Format: Softcover
  • 92 pages
  • £10.99/$15.99

レビュー

イギリスのコミックストリップ。度を越した破壊的ないたずらと醜悪な嗜好で両親をも恐れさせる女の子エイミーと、その犠牲者である周辺の人びとの狂態を描くギャグ漫画。暴力の表現には一定の歯止めがかかっていて広い読者層へ向けた配慮がなされている。しかし、実の家族を中心とした荒みきった人間関係はとても子供向けとは言えず、物事の是非を問わず誰彼をも笑い飛ばせるような割り切ったユーモアを楽しめる大人向けの作品だ。

この作品は話の舞台や登場人物など極めて限定された条件で作られている。登場人物は少なく、エイミーと両親のほかにはベビーシッターとそのストーカーの二人しか出てこない。名もない通行人やモブキャラのたぐいさえ姿を見せない。基本的にエイミーの家を舞台としているので、半ば必然的に両親にしかけるいたずらや屋内での破壊活動を扱ったネタになりがちで、その意味では型にはまったものが多い。100ページ足らずのコミックストリップでありながら既にマンネリ化から免れていないと言える。しかし、僕がこれまで知る限りでは多くの名作コミックストリップが似たようなネタをたびたび繰り返すマンネリに陥っている。この作品にだけ過剰な独創性を期待するのは理不尽だろう。エイミーがただ単にいたずらでもって両親を驚かせたり、困らせたりするような素朴なコミックは確かにいくつもあって、それだけで一応はオチがついていることになっている。しかし、本書で本当におもしろいのはエイミーと周囲の人びととの設定上の関係をふまえた上で単純にその延長ではなく、そこから別のユーモアをひねり出しているタイプのものだ。乱暴で下品な主人公の振る舞いというのはあくまで基本的な設定に過ぎず、エイミーがぬいぐるみをバラバラにしたり、ミミズを食べたりするだけのワンパターンなコミックで笑えずとも、読者にとって楽しめるものはほかにいくつも収録されている。

Excerpt A
好物のミミズを食べるエイミー

主人公のエイミーは両親と暮らしている一人っ子の幼い娘。母親の手料理よりも自分の鼻くそとミミズが好物。家の中で刃物や銃火器を使って遊び、両親を困らせるいたずらばかりして手がつけられない。また、策を弄して小遣いを騙し取るような悪知恵にも長けていて、大人をおちょくる口のうまさも持ちあわせている。こういった基本的な設定のうちでエイミーの下品な趣味や乱暴な性格が素朴に現れたコミックは実際にはそれほどおもしろいものでもない。一般的に一つのコミックストリップに期待されるようなオチをつける類のものというよりは、単純にコマを三つ使ってキャラクターの基本的な性格を説明したにすぎないものにとどまっているからだ。ほかのものと比べて一つ抜きん出ているのは、口さがないエイミーの屁理屈が周りの大人との会話においてナンセンスなひねりにまで至っているユーモアだ。

Excerpt B
"What for?"

言葉遊びのような問答の展開は現実ではもちろんありえない。しかし、ナンセンスな理屈の揺らぎは乱暴な子供に困惑している父親の不安定で情けない精神の反映として響き、それがユーモアの元になっている。まるで正当な権利の主張だと言わんばかりの尊大な態度や、商談の合意を誘導するかのように条件を細かく提示するあつかましさが輪を掛けている。エイミーのポーズにも注目してほしい。父親が行儀よくするように言い聞かせているそばから両手をポケットに挿したままにつっけんどんな口答えをし、次に「言ってみろ」とばかりに左手を抜いて促す。そして「さあ寄こせ」と両手を突き出してみせる。エイミーの態度とセリフに対して的確なだけではなく、前のコマからの変化という意味でも効果的であり、必要にして充分だろう。父親のほうがコマ枠から突き出たようなお決まりの姿勢で通しているのは残念で、これは手抜きと言われても仕方がないけれども。

両親はともにエイミーの無作法に手を焼き、恐れ、為すすべがないという点で共通している。しかし、父親のほうはおよそ困窮して苦境をともにする夫婦に似つかわしくなく、思慮に欠けた利己的な振る舞いが散見する。この父親は普段はエイミーを恐れているくせに、食卓では子供っぽくつるんで奥さんの料理の不味さを嘲笑したりしている。さらにひどいのは、どうやら奥さんに隠れてベビーシッターと浮気をしているらしいという疑惑があることだ。まったくもって救いのない、ひどい家庭だと言うほかにない。弱者がともに協力するどころか、平気で裏切りをするこういった荒んだ人間関係を笑うことが出来るか、ひいてしまうかは読者を選ぶところじゃないだろうか。母親のほうはこの漫画の登場人物の中で、弱者・被害者という意味では比較的にまともだと言える。ただ単に料理の腕が下手だというだけで旦那にもおちょくられ、娘は娘で鼻くそのほうを好んで食べたがるというのは気の毒を通り越して痛ましい。それでも実は旦那と同様に、娘を持つ親の態度として看過できない部分もある。彼女は手相の本を読み、エイミーの手の生命線の長さに気づいて嘆いている。また、エイミーのいたずらに頭を痛める日々の中で、今日ではなく代わりにあの日に、つまり子作りをした晩に頭痛に襲われていたら……などと後悔もしている。ブラックジョークとしても笑うに笑えないきついものじゃないだろうか。

家族以外でエイミーの家に出入りする唯一の登場人物がフラワー。彼女はエイミーのベビーシッターで嫌々ながら仕事を引き受けている。情けない二人の親たちほどではないにしても、彼女もまた凶暴なエイミーに手を焼いている。フラワーが同様に弱い立場にあるはずのエイミーの両親と異なるのは、彼女には陰険で攻撃的なところがあるという点だ。彼女はディックというストーカーに悩まされていて、この男に対しては情け容赦なくひどい嘲りの言葉を浴びせるのにためらいがない。普通、ストーカーというのは加害者で付きまとわれるほうが被害者にあたるものだけれども、フラワーとディックの場合は立場が微妙だ。むしろストーカーのディックのほうが虐げられているに近い関係となっている。ディックはしつこいくせに気が弱く、自信を喪失したストーカー。通常、エイミーは誰に対しても攻撃的で暴力的な振る舞いに及ぶものだけれども、例外的にディックに対してだけは比較的に穏やかだ。別に仲がいいわけではなく、単にこの男は放っておいても常に情けなく憐れな立場にいるため、エイミーの攻撃対象にならずともオチをつけることが出来るというだけのことだ。

登場人物は総じて肯定的なキャラクターなど一人もいないということがはっきりと言える。のみならず、虐げられる立場にある弱者が別の弱者を虐げるような荒んだ人間関係は何ともやりきれない気分に立ち至らせる。僕はといえば、確かに初めて読んだ際にはいくらギャグ漫画とはいえ殺伐としすぎているように感じてげんなりした。しかし、これはこういうものだと割り切ってからは抵抗なく楽しんで読めるようになった。人間として良いことなのか悪いことなのかはわからないが。

絵柄は見ての通り簡略化された至ってシンプルなもの。顔のパーツなどほとんどへのへのもへじ並みだ。背景も具体的に壁や床の模様などろくに描かず、赤や緑に青、紫などの単一色を択び、部分的に何か光源があるかのような明るさの中心を置いて明暗のグラデーションを施すといった単調なパターンで終始お茶を濁している。ただ、これだけ簡略化された絵柄で、なおかつ明らかにコンピューターを使った作画であるにもかかわらず、一度描いた絵を別のコミックでコピーして使い回すといった手抜きが見当たらないのは好感を持てるところだ。もっとも、厳密にすべてのコミックのコマを互いに見比べたわけではないし、そんないやらしい詮索をする気もないので、僕が気づいてないだけかもしれないが。

僕が今まで知る限り、一般に優れたコミックストリップでは単に読者を笑わせるだけではなく人間関係において、特に家族の機微を扱って思わず唸らせるような深い洞察を垣間見せるものが多い。その意味で Raising Amy はどうあがいてもコミックストリップの名作とは呼べないだろう。しかし、割り切ってギャグ漫画とみなすならばギャグ漫画の傑作と言っていいんじゃないだろうか。僕の好みと大雑把な主観的印象に基づいていることは百も承知で言わせてもらうと、普段読んでいるGoComics.comの十数本のコミックストリップとくらべても、本作は平均をはるかに超えるおもしろさだ。好みということで補足的に言うと、エイミーの口さがなく不躾な物言いに不快感を覚えるより、むしろ愉快に感じて楽しめてしまうのは僕のひねくれた性格による部分も大きいのかもしれないと危惧しないわけでもない。いずれにせよ、本作がどうやら完結していて続刊を期待できそうにもないのは残念なことだ。

Rating
9/10