kosame.org

国内外の漫画を読んでレビューを書くウェブログ

Explorer the Mystery Boxes

Explorer the Mystery Boxes: Cover
  • Explorer the Mystery Boxes
  • Editor: Kazu Kibuishi
  • Publisher: Amulet Books/Abrams
  • Publishing Date: March 2012
  • Size: 15.2cm x 22.8cm
  • ISBN: 9781419700095
  • Format: Softcover
  • 128 pages
  • $10.95

レビュー

「不思議な箱」というお題に基づく七つの短編からなるアンソロジー。タイトルと表紙のイメージが期待させるような冒険物やミステリーにとどまらず、ホラーやコメディなど多様なジャンルの作品を収録している。そのいっぽうで、どの主人公も年が若く、ストーリーの上でもかなり若い読者層、つまり子供を対象としている点では共通している。

収録作品は以下の通り。

  • Under the Floorboards by Emily Carrol
  • Spring Cleaning by Dave Roman & Raina Telgemeier
  • The Keeper's Treasure by Jason Caffoe
  • The Butter Thief by Rad Sechrist
  • The Soldier's Daughter by Stuart Livingston with Stephanie Ramirez
  • Whatzit by Johane Matte with Saymone Phanekham
  • The Escape Option by Kazu Kibuishi

Under the Floorboards はホラー作品。不思議な人形から持ち掛けられた好都合な提案に乗じて、本来自分でやるべき面倒な雑事を肩代わりさせていた娘が、次第に自分の存在そのものを人形におびやかされていくという話。親の躾を疎ましく思う娘の怠惰な気持ちにつけこんで人形が家庭に侵食していく様子を不気味に描いている。人形が娘に代わって部屋の掃除をしたりする、その成り代わりの度合いに段階がつけられていて、読者の意表を衝く瞬間がいくつか用意されている。20ページ足らずという短い紙幅を考慮すればそれなりによく出来ていると言うべきかもしれない。ただし、人形が人間の娘と入れ替わってしまうという、ゾッとするような話の膨らませ方をした割にオチはあっけない。それに、オチをつけるための条件となっている人形の設定がそもそも恣意的だ。そうでもしなけりゃこの短いページ数で話を終わらせることが難しかったからそんな設定を選択したんだろうとしか考えられない。絵柄については、人物の輪郭がかなり大雑把で、描線の引き方も無造作な点が目につく。物の質感は乏しく、人物のポーズはぎこちない。主人公の着ている上着はまるでボール紙で出来ているみたいだし、なで肩の緩やかな曲線は描けていても、曲げた肘を平気で鋭角にかたどってしまうため二の腕から下が幾何学図形の組み合わせように見える。また、アップに堪える表情が描けないのも残念なところだ。本来なら読者の視点を引き寄せて迫力に訴えるべきところで、単純にコピー機で拡大したような、粗い線で縁取られた間延びした顔を突きつけられてしまう。

本作は冒頭に収録されているので当然のことながらこれから読み始めたんだけれども、先にいろいろ挙げた理由の通り、正直言ってあまりおもしろいとは思わなかった。しかし、結論から先に言うと、実は本書の中ではこの作品がいちばん出来がいいと認めざるをえない。以下に続く作品のほとんどがもっと酷い出来だからだ。良かった点を挙げるならば、まず主人公の女の子が、厳しく非難されるほどではないが、しかし安直で楽観的な、いかにも子供らしいエゴイズムでもって怠惰な自分を肯定していること、つまり、どこにでもいそうな普通の子どもということだ。そして、自分の経験から学んだうえで考えを改めるに至っている。納得がいくし、説教臭くない。筋立ての都合でもって不自然に言動を矯正されることもなければ、大人が期待するような正解を選ばされてもいない。主人公はやがて人形に雑事を代行させるという怠慢を改めるけれども、それはあくまで恐怖が理由であって、勉強や雑事をすることが本来は自分のためなんだと気づいたからではない。単純に人形に乗っ取られる恐怖から逃れるため、ただそれだけだ。しかし、状況に身を置いた立場として自然であり、理解できる選択だと言える。

Spring Cleaning は軽めのコメディ。自室のクローゼットから出てきた見覚えのない箱をインターネットで売却しようとした少年が、その箱を狙って次つぎと現れる魔法使い同士の争いに巻き込まれるという話。魔法使いが皆、箱を我が物とすることしか考えていない強欲な性格であるということがユーモラスに描かれていて、本書の全ページを通じて唯一ささやかな笑いを提供してくれる箇所になっている。謎の箱の正体や魔法使いたちの素性についての説明が決して大掛かりな、真面目ぶったファンタジー的設定ではなく、行き当たりばったりのホラ吹きに近いものにとどまっているのがいいところだ。説明されている内容が嘘だというのではなく、あくまでコメディのお膳立てとして使われていて、魔法に関係する恣意的な設定にリアリティを持たせようと無理をしていない。箱が実は対となって機能するものであるという真実が、少年と隣家の少女との関係に含みを持たせる象徴的な意味合いを持っていて、ただのドタバタ喜劇ではなく、テーマらしいテーマも一応は備えている。ただし、話の締めくくり方が弱い。箱をめぐって魔法使いたちが相争うという関係を転じて何か新しい状況を生み出すのではなく、ひたすら子供のケンカのように争いを続けるという消極的で意外性のないオチになっているのが残念だ。

The Keeper's Treasure は財宝を求めて人里離れた山奥にある寺院へたどり着いた青年と、その財宝の番人とのやりとりを描く短編。青年の目的である金銀財宝などの富に対して、番人が心に抱く奔放な想像力を優位に置いて対照的に風刺している。端的に言えば、金銭的な豊かさよりも心の豊かさのほうが大切なんですよと、読者に教訓を垂れるしょうもない話。番人が財宝の正体を夢見ながら自分では中身を確かめようともしないこと、青年に財宝をただでくれてやって気にも留めないことなど、想像の世界に安居する番人の設定に説得力がない。無理のある強がりを言ってる様にしか聞こえない。絵柄はカズ・キブイシに似ていて、本書に収録されている作品の中では、画力に訴えて読ませることが出来るほうだと思えるけれども、残念ながら背景といい、財宝の山といい、特筆するほどの迫力はない。

The Butter Thief は画風やキャラクターの設定などいろいろと変り種と言える作品。バターを盗みにやって来た精霊に呪いをかけられ、同じような精霊の姿に変えられてしまった娘が、もとの人間の姿に戻してもらうために協力して自分の家からバターを盗もうと奮闘する話。盗みに来たとはいえ、悪戯っ子のようにあどけなく、チャーミングな精霊と娘とのささやかな共感をほのぼのと描いている。一読して目に付くのは、家のおばあさんが日本語で喋っていることで、このおばあさんの台詞だけ漢字とひらがなの縦書きでもって書かれている。擬古文的な言葉遣いをしているが、バターのことをわざわざ「乳酪」と呼んでいるほかは実際の日本語としておかしなところはない。輪郭線を引かずに人物や背景を塗り分けによって描いていることや、パステルカラーの色調からはCGアニメからの漫画化のようにも見える。精霊が鹿のようなツノを生やし、隈取りをした狸か猿のような顔に上向きの鼻がついているという妙なキャラクターデザインは独特で可愛らしい。人間から見れば小人に等しい大きさの精霊から見た視点はそれなりに臨場感があるけれども、話自体が他愛なく、娘と精霊のちょっといい話といった程度にとどまっている。

The Soldier's Daughter は戦争で殺された父親の仇を討とうと旅立つ娘の話。復讐は亡き父の本意ではないと押しとどめようとする兄に逆らって、血気盛んな妹は敵の将軍を討ち取るべく独りで家を出るが、途中で出会った謎の老人に見せられた幻想的なヴィジョンによって考えを改めるに至る。これまた、復讐はいけませんよ、戦争に勝者などいませんよ、暴力はいけません、兄妹仲良くしましょうといった、うんざりするような教訓話だ。妹を心変わりさせるヴィジョンに何の説得力もなく、長々と続く説教によって結論へまっしぐらに向かってしまう。せめて、老人の説得にもかかわらず、怒りを抑え切れない妹が復讐に走ってしまうが、その結果……というような展開が続けばまだしも、わかりきった理屈を並べ立てられて主人公が素直に改心してしまう筋立ては読むに堪えない。安直に正しい選択肢を読者である子供に押し付けるくらいなら、怒りに任せて復讐を求めてしまう悪い主人公を描いたほうがマシだろう。本書を手に取るくらいの歳の子供なら善悪の判断くらいつくだろうし、そもそも善悪の判断など読者の裁量に任せるべきだ。作品の中で主人公に正しい選択をさせなければ子供に誤った影響を与えてしまうと考えているのならば、子供を馬鹿にしすぎだろう。絵柄も、くっきり太い線と、開いた口が半円形になるようなデフォルメされたキャラクターデザインとが、むしろギャグ漫画向きであってテーマにそぐわない。

Whatzit は宇宙船で貨物を運ぶ運送業者のじいさんを持つ孫がほかの従業員から身内びいきを妬まれて邪魔をされるというちょっとしたトラブルを描いた話。けばけばしい色使いといい、簡単にひしゃげそうなゴム人形のような人物造形といい、目や口を巨大に描くデザインといい、アメリカの子供向けカートゥーンアニメにいくらでもありそうな感じだ。実際、話もいじめられっ子がいじめっ子にしっぺ返し的な報復をするという、いかにも子供向けの他愛ない内容だ。

The Escape Option は突如として姿を現した異星人に滅び行く地球の運命を聞かされた青年が、種の保存のため彼らの星への移住を持ち掛けられるというSF。青年は移住を逃避だとみなし、地球に残って危機を救うために何か出来ることがあるはずだと結論付ける、それだけの話。異星人は青年に彼らの星の哀れな真実の姿を見せてなく、暗にどこの星に行っても現実に抱えた問題から逃げていては駄目なんだということが仄めかされている。またもや、うんざりするような教訓の押し付けだ。なるほど、確かに地球を見限ってよその星へ逃げるより、地球を何とかしようと努力するほうが結構なことには違いない。しかし、そんな教訓を垂れること以外に何もない漫画のどこをどうおもしろがって読めばいいのかわからない。また、青年の選択がどうあれ、地球の運命を知っているという異星人に対して具体的にどのような原因でもって地球が滅ぶのか尋ねようともしないのが不自然だ。さらに、本人が言うようにごく普通のどこにでもいそうな一青年が地球の滅亡を防ぐためにいったい何をするつもりなのか、まったく説明しない。エコバッグを使用することが地球環境の保全に役立つというような噴飯もののコメントを吐かせたりはしてはいないが、それすらない。何もない。漠然と、地球を見捨てないという選択をしただけだ。絵柄は、人物が簡略化されている割に背景を緻密に描く日本の平均的なアニメに近い。表紙を一瞥すればわかるようにこの作者はそれなりに写実的な背景を描くことが出来て、この作品に登場する箱のような神秘的なオブジェで読者の目を惹きつけることも出来ただろう。しかし、残念ながら話はつまらないが絵の魅力だけで読ませるというほどには至っていない。写真を加工したと思しき背景の上で人物が完全に浮いて見えてしまう箇所があって調和していない。また、風の勢いや日光の照り返しを表現するために、森の木々がところどころ不自然なほど部分的に刷毛でさっと刷いたような加工をされていて興ざめさせられる。異星人の住む星の姿が未来のプロジェクターのような技術でもって映し出されるコマが一つあって、ここは上手くやればそこだけ切り取って額に入れても絵になるようなコマになれたかもしれないが、残念ながらどこかの大都市の遠景写真を適当に画像編集ソフトで加工したのが哀れなほどにバレバレだ。

結論としては、子供向けということをどのように内容に反映させるのかという姿勢が、そのまま作品の出来につながっているように思えてならない。また、どの作品もオチが弱く、比較的に読める作品であってもまるでページ数を気にして急展開を強いられているかのようにあっけなく終わってしまっているのが残念なところだ。

Rating
4/10