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Never Learn Anything From History

Never Learn Anything From History: Cover
  • Never Learn Anything From History
  • Author: Kate Beaton
  • Publisher: TopatoCo
  • Size: 20.3cm x 20.3cm
  • Format: Softcover
  • 72 pages
  • $18.00

レビュー

カナダ出身の若手でLiveJournalを拠点として人気を博す漫画家、ケイト・ビートンの作品集。収録されているコミックはウェブで公開されていてタダで読むことができるものばかり。本来はコアなファンに向けたものであることには違いないだろうが、ゆるいファンであっても紙媒体のほうを好む僕のような読者にはありがたい一冊だ。

タイトルはおそらくヘーゲルの言葉のもじり。歴史哲学講義(岩波文庫版長谷川宏訳)の序論でヘーゲルはこう述べている。

君主や政治家や民衆にむかって、歴史の経験に学ぶべきだ、と説く人はよくいますが、経験と歴史が教えてくれるのは、民衆や政府が歴史からなにかを学ぶといったことは一度たりともなく、歴史からひきだされた教訓にしたがって行動したことなどまったくない、ということです。

本書に収録されているコミックは以下に列挙した通り。LiveJournalのほうが読者のコメントを読むことができて便利だと思っていたけれども、アーカイブから目当てのコミックを探しづらいし、著者が以前LiveJournalの仕様について愚痴っていたことも考慮して、おそらくは先々まで消えることのない本家harkavagrant.comのほうへ原則的にリンクを貼った。ちなみにサイト名の由来は著者の体験した実話と思しき出来事から採られている。

タイトルの前の記号はあくまで僕の個人的な好みを示すもの。◎はとてもおもしろい、かなり好き。○はまあまあおもしろい。△はあまりおもしろくない。?はユーモアのポイントがわからない、といった感じで参照のための利便を考慮してつけてみた。

Better luck next time
Hark, a vagrant: 2
Jane and Ben
Hark, a vagrant: 4 Hark, a vagrant: 23
His list of eccentricities is worth the read
Hark, a vagrant: 5
The peach basket man is hard done by
Hark, a vagrant: 6
To be the best
Hark, a vagrant: 161
Happy Canada Day
Hark, a vagrant: 10
A two partner
Hark, a vagrant: 117 Hark, a vagrant: 118
Isn't it grand boys
Hark, a vagrant: 13
Captain My Captain
Hark, a vagrant: 14
Love me do
Hark, a vagrant: 152
Everyone is against me, except the people
Hark, a vagrant: 16
Song of the Sea
Hark, a vagrant: 119
The famous booths
Hark, a vagrant: 19
Yes my queen
Hark, a vagrant: 21
You cannot deny the majesty
Hark, a vagrant: 22
Like an arrow
Hark, a vagrant: 66
Reaching for the Beaufort Sea
Hark, a vagrant: 24
One hundred percent accurate
Hark, a vagrant: 134
The more you know
Hark, a vagrant: 25
I wonder if James Munroe really had it goin' on
Hark, a vagrant: 26
Rebel Yell
Hark, a vagrant: 27
The fate of a nation
Hark, a vagrant: 28
The father of lies
Hark, a vagrant: 30
OMG shoes
Hark, a vagrant: 162
Soren I hardly knew ye
Hark, a vagrant: 33
Sons of liberty
Hark, a vagrant: 34
Lord, this Newfie joke is complex
Hark, a vagrant: 36
Boat!
Hark, a vagrant: 124
Blistering Barnacles
Hark! A Vagrant - blistering barnacles
Poor old sailor
Hark, a vagrant: 123
Nonsense
Hark, a vagrant: 125 Hark, a vagrant: 129
An 'E' for effort
Hark, a vagrant: 40
Too bad for you
Hark, a vagrant: 160
The invincible army
Hark, a vagrant: 41
Thereafter, pretentious men may quote me ad nauseum
Hark, a vagrant: 42
Emperor of these United States and Protector of Mexico
Hark, a vagrant: 43
Homage to the Road to Animal Farm
Hark, a vagrant: 44
You've lost that lovin feeling
Hark, a vagrant: 153 Hark, a vagrant: 154
Maybe this newfangled 'police' idea is the ticket
Hark, a vagrant: 46
Fat fat ponies
Hark, a vagrant: 127
Pope comics
Hark, a vagrant: 128
JPII keeps it real always
Hark, a vagrant: 209
Prime Minister Parade
Hark, a vagrant: 49
Unsolved Mysteries
Hark, a vagrant: 50
What you and I have, is so Riel
Hark, a vagrant: 51
Say hello to my little friend
Hark, a vagrant: 52
Fat Napoleon
Hark, a vagrant: 135 Hark, a vagrant: 136
In which Robin breaketh the 4th wall
Hark, a vagrant: 53
Adventure Time
Hark, a vagrant: 54
Hey Santa
Hark, a vagrant: 163
Mary Mary quite contrary
Hark, a vagrant: 56
In service of the King
Hark, a vagrant: 131
Eat your heart out, Milli Vanilli
Hark, a vagrant: 57
During lunch hour, I...
Hark, a vagrant: 59
The Patriot
Hark, a vagrant: 60
How to ruin a Greman's breakfast
Hark, a vagrant: 38
Nikola Tesla mad for science and the ladies mad for Nikola Tesla
Hark, a vagrant: 61
I am trying to be noble here
Hark! A Vagrant - I Am Trying To Be Noble Here
You're a hell of a dame
Hark, a vagrant: 159 に以前はあったようだけれども、作者の意向により別の無関係のイラストに置き換えられている。
The silliest thing
Hark, a vagrant: 64 (のちにリメイクされている)
Playing with the boys
Hark, a vagrant: 133
Sweet Freedom
Hark, a vagrant: 140
As you're told
Hark, a vagrant: 65
Whoring out history
Hark, a vagrant: 156
How do you like them apples
Hark, a vagrant: 164
To say nothing of a skin disease
Hark, a vagrant: 15

多くは歴史上の人物を題材としているけれども、歴史物とひとくくりにするには無理のある例外もいくつか含まれている。作者が古今東西の歴史に関心を持っていることは明らかだけれども、描かれている対象はあくまで人物であって、とくにその性格や気質といった極めて個人的な側面に限定されている。その意味では映画トップガンのビーチバレーの場面も、ロベスピエールが人びとをギロチンにかける場面も、作者の関心からすればたいして違いがないということになるんだろう。実際、似たような筆致で描かれている。収録作品を厳密に歴史物で統一しようと思えばできただろうが、そうしなかった理由はわからない。しかし、描写のノリは一貫しているので読んでいて別に違和感なくまとまっている。

それぞれのコミックのおもしろさの質は、大別するなら史実の出来事や人物そのものに由来するものと作者の創作した部分によるものと二つある。前者のほうでは特に取り立てて言うほどの傑作はなかったけれども、この手のタイプのコミックは時として調べ物のために読まされるウィキペディアの記事のほうがおもしろかったりする。たとえばアメリカ合衆国皇帝を名乗った男の話などは当該のコミックそっちのけで読みふけってしまった。

作者の創作に由来するユーモアは基本的にカリカチュアといっていい。人物の性格を誇張したり、あるいは子供っぽくさせたりとやってることはどれも大差ない。理屈で真面目に考えるならば歴史上の偉人をちゃかしているだけで馬鹿げているとか幼稚だとか思えそうなネタにそれでも笑えてしまうのは、ひとつにはこの作者のいちばん目を引く特徴といっていいデフォルメされたキャラクターデザインによる独特の表情の描き方にあると認めなければならないだろう。もうひとつには、この作者は人物の感情を反映したちょっとした仕草をとらえて形にするのが巧みだということがある。カナダ首相ピエール・トルドーの奥さんを描いたカットがその例で、史実の時代背景や奥さんの人柄などとは無関係にその仕草の表現だけで大いに気に入ってしまった。この作者の描く人物は解剖学的な正確さには程遠く、描線も殴り書きに近い荒っぽさが目立つけれども、そういった短所を長所が補って余りある絵柄だと言うべきだろう。

とくに僕の気に入った上位の三つを挙げるならば、何よりもまず独立宣言起草前夜のベンジャミン・フランクリン、次にネルソン提督の最期、そしてジャン=ポール・マラーの暗殺ということになる。あとの二つは史実の部分は別にどうということはなく、作者の創作による部分がおもしろいタイプのもの。ベンジャミン・フランクリンのネタはかなり稀なケースで、これは単純に史実に脚色を加えたほぼすべてのその他の収録作とは異なって、史実をひねる形で別の史実につなげるというネタをやっている。ほかの二つを引き合いに出して言えば、ネルソンの今わの際にこんなコントじみたやりとりがあったはずがなく、またマラーも湯船につかってアヒルのおもちゃで遊んでいたという史料は残ってないだろう。ただ、もしそうだったらおもしろいというだけのことだ。フランクリンのほうについても描かれていることが史実でないことには変わりないが、「もしそうだったら」という条件を部分的に支える史実の要素のおかげで、フィクションの出来事を後押しする積極性のようなものがあり、馬鹿げたカリカチュアに不思議な説得力を持たせている。

肖像画や写真の伝わっている偉人や著名人を扱ったコミックにおいて、作者の絵を似顔絵として見た場合、決して出来が良いとは言えないだろう。幾人かはかなり丁寧に似せて描いたことが見て取れるけれども、全体的にはその度合いがバラバラで、よく特徴をつかんでいるものと適当なものとの差が激しい。こういったムラのある出来は、不定期更新でとくに制約もなく作者が気の向いたときに自由に描きちらせるウェブコミックというものの性格を反映したものとみなせるだろう。そうはいっても、このウェブコミックがまったく何の修正や加筆もないまま紙に印刷されて本になったことは僕にとってちょっと驚きだった。これをそのまま出してしまうのかという感じで。

本書の体裁はとても簡素。 "PRINTED IN CANADA" と書いてあるくせに出版の日付もなければ出版社の名前すらどこにも見当たらない。そのいっぽうで紙質は悪くないし、製本も比較的しっかりしているほうだ。調べ物にあまりに時間を費やしたので読み終わるまでかなり手間取ってしまい、徒労感もないわけじゃないが、独立した極めて短いコミックの寄せ集めというフォーマットを考慮すれば傑作ばかりを期待できるはずもなく、そこそこよくできた作品集というべきだろう。

Rating
7/10