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XIII Vol. 3: All the Tears of Hell

XIII Vol. 3 by Jean Van Hamme & William Vance: Cover
  • XIII Vol. 3: All the Tears of Hell
  • Writer: Jean Van Hamme
  • Artist: William Vance
  • Publisher: Cinebook
  • Release: September 2010
  • Size: 18.4cm x 25.7cm
  • ISBN: 9781849180511
  • Format: Softcover
  • 48 pages
  • £5.99/$11.95

レビュー

XIIIシリーズの第3巻、 Toutes les larmes de l'enfer の英訳版。オリジナルは1986年の刊行。無実の罪で終身刑の判決を喰らったXIIIの刑務所生活と脱獄の試みを描く。スリリングな逃亡を繰り返していたこれまでとは異なり、主人公の刑務所送りによって話の主な舞台が空間的に限定されてしまったけれども、そのいっぽうでこの設定は筋立ての上でさまざまな方面に活かされていて、密度の濃い人物描写やサスペンスを作り上げることに貢献している。

XIIIが収監されたプレインロック刑務所は精神を患った重犯罪者ばかりを対象とした施設であり、前の巻で彼に向けられた嫌疑が仮にすべて真実であったとしても、僕にはちょっと度を過ぎた処置であるように思える。すなわち、大地主であるローランド家の当主にして実の父親と目されるジェレミー・ローランドと叔父のマチュー・ローランドを銃で殺害したという疑い、及び法廷で自分がスティーブ・ローランドではないと証言したことだけでプレインロック刑務所行きとなるのは理不尽じゃないかということだ。被告が根拠なしにいくら自分のアイデンティティを否定したところで、精神鑑定を行えば責任能力の所在や、精神病の類を患っていないことはおのずから明らかになるにきまっている。彼は記憶を喪失しているだけであって、論理的な思考や善悪の判断など精神面では何ら普通の人間と変わらないはずだ。この巻には話の舞台が一般的な刑務所だったならば引き立ちにくい見せ場がいくつもあるので、これは筋立ての都合を優先した漫画的な処置と見なすほかないだろう。

プレインロック刑務所の特徴が筋立てにおいて最も役立っているのは、マングースからXIIIへの接触をドラマチックに演出するための背景になっているという点だ。マングースとは、この物語の冒頭からXIIIの命を付け狙う組織の首領を指すニックネーム。エイモス大佐によれば、大統領暗殺を指揮してXIIIに実行をさせたということになっている黒幕だ。XIIIが記憶を取り戻して真実を語る前に亡き者にしたいというのがマングースの思惑のはずで、終身刑によって囚われの身となり、外部からの自由な接触を阻まれるというのは都合が悪い。例えば、殺し屋を送り込んでXIIIを仕留めるといったことは刑務所においては困難だ。ただし、刑務所であると同時に精神病院でもあるプレインロックの特徴がマングースの狙いに利するものになっている。この刑務所は刑期終了後に社会復帰するための更生や再教育といった考えとは無縁で、基本的に囚人を死ぬまで隔離しておくための施設だ。また、そういった殺伐とした環境と無縁ではないだろうが、囚人を監視する刑務官や医療行為に従事する職員には人権への配慮や囚人に対する処置の正当性を疑う視点など微塵もない。これはつまり、プレインロック刑務所が囚人にとってひどい場所だというだけではなく、そこに勤めている職員にとっても、まともな神経の持ち主であれば耐えがたい場所であって、出来ることなら抜け出したいと願う者が出てきても不思議ではないということだ。中の囚人を外へ逃がさないよう閉じ込めておくという刑務所本来の目的は、同時に外の人間の接触を阻むことにもなっているわけだけれども、このプレインロック刑務所の独特の性格にこそマングースの付け入る隙もあるというわけだ。また、この刑務所が同時に病院でもあるということは逆に、囚われの身のXIIIに外部から助け舟を出してやるための筋立ての上での方便にもなっている。いくら屈強な元軍人だとはいえ、監禁状態に置かれているXIIIが独力でマングースの魔の手をかわし、さらに脱獄まで成功させるというのは無理があっただろう。プレインロックが刑務所であり、そこの囚人が精神を患っている者ばかりであり、さらに患者を受け入れることの出来る病院としての機能も備えているという設定は、脱獄の成否にリアリティを与えるとともに付加的なサスペンスの要因ともなり、さらに脇役の登場人物に焦点を据えたちょっとした悲喜劇的なエピソードを盛り込むことも可能にさせている。この巻のストーリーがありきたりの脱獄物に留まらなかった最大の要因だ。

キャラクター描写については、狂気の表現に秀でている。囚人がみな精神を病んでいるという決め付けのもとで、医者が職務の正当性に乗じて常軌を逸した振る舞いに及ぶといった基本的な人間関係に注意を引き付けることで巧く読者を騙している。誰が本当に狂っているのかという真実をめぐり、ステレオタイプに基づく見当を読者に抱かせておいてあとで鮮やかに外してみせるという意外な演出が功を奏している。このことは精神疾患の有無に留まらず、マングースの魔の手がプレインロックの内部にどのように潜んでいるのかという謎についても同様で、その意外な正体には驚かされる。

この巻のストーリーは一言で言ってしまうと脱獄物ということになるけれども、古典的な手法に依存しすぎていないのがいいところだ。すなわち、XIIIは脱獄を試みるうえで脱出物にありがちな通気ダクトや排水口のような抜け道を利用しているし、看守の頭は囚人の狂言に簡単に引っかかって牢屋の鍵を奪われてしまうほどに間抜けに出来ている。しかし、こういった常套的なアイデアが脱獄の成功に直結するほど話は単純ではなく、最後にひとひねりしたものになっている。

演出は良くも悪くも漫画的で、出来事のリアリティよりもサスペンスの効果を優先した場面が目立つ。マングースはXIIIの命を狙うに先立ってわざわざ面会人を装って刑務所を訪問しているが、これはマングースの本来の目的からすれば必要のない危険を冒していることになる。XIIIの絶体絶命のピンチを救う味方はギリギリのタイミングにならなければ姿を現さず、しかも手元が狂えばXIIIに当たりかねない無茶な銃撃を見事に成功させ、さらに涼しい顔をして芝居がかったセリフを吐いている。

政府の密命のもとに大統領暗殺の黒幕を突き止める職務に従事しているエイモス大佐は、この巻ではXIIIについての医学的調査の結果をキャリントン大将に、および読者に対して説明する役割で登場している。前の巻のレビューで僕はエイモス大佐の心理描写が物足りないということを書いたけれども、この巻においても同様だ。XIIIの正体が元軍人のスティーブ・ローランドであり、大地主ローランド家の跡取息子であるという前提に立ってXIIIを監視下に置きながら、緩い軟禁状態のせいでXIIIが大騒動に巻き込まれる事態を許してしまった。そのくせ今回も相変わらずのすました表情で出てきて「彼はスティーブ・ローランドではない」と言い切ってしまうのを聞いて僕は吹き出してしまった。前の巻と言っていることが違うのは新事実が判明したからであって、そこに文句があるわけじゃないが、少しは焦ったり、戸惑ったり、苛立ったりといったような人間的な感情を見せたらどうなんだと感じざるをえない。軍人のくせに蝶ネクタイ締めて、落ち着き払って葉巻なんか吸ってるのが滑稽に見えて仕方がない。

軍人スティーブ・ローランドの上官にあたるキャリントン大将については、もしスティーブ・ローランドことXIIIが大統領暗殺の容疑者であると知ったら、それでも彼の味方として振舞うだろうかという懸念が含みとしてあった。今回、エイモス大佐の報告によってXIIIが実はスティーブ・ローランドではなく、外見を装った別人だという調査結果を聞かされるに及んでもなおキャリントン大将がXIIIに肩入れする理由はよくわからない。仮にスティーブ・ローランドが大統領暗殺の犯人であっても、かつてのよしみで親身になって接するというのなら、まあ理解できる。しかし、XIIIがスティーブ・ローランドの皮を被った別人であるという医学的な根拠を示されて驚きはしても、XIIIへの不信感が湧くどころか救出に惜しみなく尽力していることの理由がわからない。同じアメリカ軍人であってもエイモス大佐のことを蔑称的に公僕呼ばわりしたり、引用符付きで「大佐」と言ったりしていることから、明らかに非協力的であることが覗えるけれども、それだけでは説明にならないだろう。唯一挙げられるとすれば、XIIIが基地を訪れた際にちょっとした一悶着があって、そのときの感触から何か科学的な認識とは無縁の直感でもってXIIIの信頼するに足る人間性を見抜いたというような理由なのかもしれない。少なくともはっきり言明されているわけではないので、そうとでも推測するほかにない。

絵については、もはや微妙な出来の塗り絵だということは触れないでおき、今後このシリーズを読みすすめていくなかで改善されたことに気づいたらその際に言及するということにしたい。人物描写はどうも巻ごとにキャラクターを選んで特に力を入れて描かれているように思える。第1巻ではマーサというみすぼらしい中年女であり、第2巻では小作農の荒くれ男たちであり、そしてこの巻ではプレインロック刑務所の不気味な囚人たちだ。両目が互い違いの方向へ寄ったまま定まらない、いつも汗をかいている、口の端からよだれを垂らす……などというようにずいぶんと醜悪な印象を与えるように描かれている。実際にプレインロック刑務所のようなところへ放り込まれる人間はそういうタイプばかりなのかもしれないが、あまりにもあけすけな描きっぷりに驚いた。

一部の登場人物の言動には腑に落ちない点があるものの、サスペンスに富み、意外性のある展開に惹きつけられ、全体として大いに楽しんで読むことのできた一冊だ。このシリーズが出版社のサイトで More than 10 million copies sold of 19 books in the series! とふれられているのを読んだとき、「これほんとにそんなに面白いの?」と訝ったけれども、この巻まで読み進めてようやく僕もはまったと言える。この先よほど退屈しない限りは買って読みつづけることになるだろうと思う。

Rating
9/10