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XIII Vol. 2: Where the Indian Walks

XIII Vol. 2 by Jean Van Hamme & William Vance: Cover
  • XIII Vol. 2: Where the Indian Walks
  • Writer: Jean Van Hamme
  • Artist: William Vance
  • Publisher: Cinebook
  • Release: July 2010
  • Size: 18.4cm x 25.7cm
  • ISBN: 9781849180405
  • Format: Softcover
  • 48 pages
  • £5.99/$11.95

レビュー

XIIIシリーズの第2巻、 Là où va l'Indien の英訳版。オリジナルは1984年の刊行。この巻では、主人公が記憶喪失以前に親交のあったと思われる人びとと接触することによって謎に包まれた自身の正体を探る試みを描いている。まだ先の長いシリーズの序盤と見なしていい段階で主人公の社会的な境遇がめまぐるしく転変していく筋立ては、この先の展開のパターンを期待させると同時に、やや強引な話の運び方に不満も抱かせずにはいられないものになっている。

本題に入る前にちょっと前置きをしておきたい。第1巻のレビューで作品の舞台となっているのがどこの国か曖昧だということを書いたけれども、どうもそれは僕の考えすぎだったようだ。本編に先立って説明されているこれまでの粗筋のなかで普通にアメリカ合衆国が舞台となっていることがわかる。それからもうひとつ、この主人公の呼び方を暫定的に決めておきたい。第1巻で彼がジャック・シェルトンという名前を名乗っていたことが明かされ、そしてそれが偽名であることも判明し、この巻では実はスティーブ・ローランドという軍人だったということがかつての戦友から直々に教えられる。じゃあそれがこの主人公の正体なのかというと、この巻の結末ではどうやらそれも怪しいというように疑問を付されている。長いストーリーの序盤でこれだけコロコロ主人公のアイデンティティが変わるのならば、まだこの先もそうすぐには確定的なことは言えないと見なすべきだろう。第1巻のレビューでは触れなかったけれども、主人公の左の鎖骨の辺りには「XIII」の文字が刻まれており、これも本人には身に覚えのない謎の一つとなっている。作中でこのタトゥーのことを知っている人物は少なく、そう呼ばれることは稀なんだけれども、手短で便利なのでこの主人公のことを当面はXIII(サーティーン)と呼ぶことにしたい。

話の筋は、XIIIが実際に何者であるのかというアイデンティティーや、周囲の人間との敵味方の関係を決める立場において、目まぐるしく彼の境遇を変化させている。序盤はローランド大尉という軍人としての過去がたっぷりと時間をかけて語られるが、大地主であるローランド家の跡取息子としての側面が明らかになる中盤以降は畳み掛けるようなドラマが待っている。地主としてのローランド家は権力に物を言わせて小作農に無理強いをする暴君であり、さらに家族のなかも実権を握っているのは人格的にひどい連中でとても理想の家庭とは言いがたい。さらに、XIIIは遺産相続をめぐる陰謀に巻き込まれて最後は法廷に被告として立たされる羽目に陥っている。身体能力を駆使してひたすら追っ手から逃げることが主眼だった前の巻とは違って、社会的な関係のなかに組み込まれたまま立場がどんどんと変化していくのがおもしろいところだ。

XIIIの正体についての謎解きはそれなりに進展しているものの、謎が明かされる過程のうちでXIIIが自分で取り組む部分の手際はしょぼいと言うほかにない。第1巻の前半でXIIIが追っ手を撃退することによって入手した自分の正体についての手がかりがある。キム・ローランドという女性と並んで自分が写っている写真だ。これは物質的な手がかりとしてはほとんど唯一のものでこれまでいくらでも凝視する暇があったはずなのに、今になって写真に何か妙なものが写っていると気になっている。それがなんであるのか分析するために写真屋に持ち込むことによって謎解きが進展することになるんだけれども、写真を拡大することでそれまで気づかなかったものに気づくという展開には呆れてしまった。これは追っ手の一人であるエイモス大佐という人物がXIIIに対して大統領暗殺の実行犯であるという証拠を突きつけた際のアイデアと同じものだ。同じ作品のなかで、しかもページ数で言えば40ページ足らずのあいだに同じアイデアを使いまわすというのはどうかと思う。この作品はミステリーではあっても、推理物とはとても呼べないだろう。

XIIIの二つのアイデンティティー、すなわち特殊部隊に所属した凄腕の兵士であることとローランド家の跡取息子ということは、彼にとってそれぞれポジティブな側面とネガティブな側面になっている。どちらもXIIIの正体であるかどうかはまだ確定していないけれども、スティーブ・ローランド大尉がローランド家の跡取息子のスティーブ・ローランドであることは間違いないので、どちらかだけが真実ということにはならず、彼にとってジレンマの元と言える。実際、今回の話のクライマックスはこのネガティブなアイデンティティーに絡む人間関係がもたらした絶体絶命の危機をポジティブなアイデンティティーに絡む人間関係が救った形になり、言わば新しく判明した真偽の怪しいアイデンティティーによる自作自演のようなドラマになっている。XIIIがスティーブ・ローランドでなければすべて起こりえなかったドタバタ騒ぎの顛末が殺人の濡れ衣を着せられての出廷であり、しかもそれと前後して実はXIIIがスティーブ・ローランドではないという新事実が仄めかされるというのはとんでもない皮肉であり、シリアス一辺倒のストーリーのなかにあって貴重なユーモアと言ってもいいかもしれない。

ストーリーはキャラクターの言動の描写について、多かれ少なかれ行間を読んだうえでの理解を前提にしていて、これは察しの悪い読者にとって一読しただけでは腑に落ちない点が残るだろう。僕は正直言って察しのいいほうではないので冒頭からしてページをめくる手を止めて考えざるを得なかった。第1巻の最後で追っ手を振り切り、列車に乗って逃亡を始めたはずのXIIIが、なぜかいきなり米軍基地を訪問している。エイモス大佐の尋問を強行突破で命からがら逃げ出してきた男がどうして敵陣に自ら乗り込むような真似をするのか? このことは各々の登場人物がXIIIについてどんな情報を持っているかという区別と、エイモス大佐の担っている使命の意味を踏まえないとわからないことだ。

行間を読ませるような簡潔で必要最低限の描写について素人考えということを承知で代替案を挙げさせてもらうならば、これはほんのちょっと心理描写を加えるだけでサスペンスとして効果的になりそうに思えてならない。例えば、XIIIは訪問した軍事基地でかつての恩師キャリントン大将に出会い、非常に好意的な待遇を受けたもかかわらず、そっけない態度で逆に反発を食らってしまう。この巻の本編を通して読むとこの二人の小競り合いは必要だったのかと疑問になるほどどうでもいいことのように見えるけれども、これはXIIIの懸念を前提にした出来事だと言える。キャリントンはとても親身になってXIIIに協力してくれそうだけれども、もしXIIIが大統領暗殺の実行犯だと判明したらどうだろうか? こういう懸念がXIIIの頭の中にあることは容易に想像できるけれども、それを利用してサスペンスとして表現しないのがもったいないことだ。この不満はエイモス大佐の言動についても同様だ。大統領暗殺の黒幕を何としても探し出さねばならない責任を持ち、大佐の権限で軍の人員や装備を潤沢に使えそうな立場にありながら、しかしそういった事情をおおっぴらに公開することはできず、地元の保安官の非協力的な態度に阻まれてXIIIを監視の目から逃がしてしまう。このくだりはどんな心境だったんだろうと僕は思いめぐらさずにいられない。日本の漫画であればほぼ決まって心理描写に訴える状況だからだ。

エイモス大佐についてはたとえ行間をよく読んだうえでも、ちょっとやってることが手ぬるいように思えてならない。前の巻では真実を突き止めるためならばXIIIを拷問にでもかけかねない勢いだったのが、この巻ではだいぶトーンダウンしている。XIIIが本当に記憶喪失であることが確認されたのでそれ以上本人をどう叩いても何も有益な情報は出てきそうにないという判断は理解できる。しかし、それならばXIIIを完全に手中に置いて逃がさないという処置を徹底すべきだろう。この巻でエイモス大佐のやっていることは軟禁状態には程遠いザル警備だ。

出来が微妙な塗り絵っぽい彩色は前巻と同様。凝りもせずに同じ黒人女性の白目を褐色に塗ったり、白く塗ったりと適当なことをやっている。線画についてはローランド家の傍若無人な対応に怒りをぶちまける農家の中年男たちの描写が際立っている。相手が大地主だろうと怯むことなく、それこそ法がなければ相手をリンチにしかねないほどに漲った怒りの迫力がよく出ている。

この巻までの内容を整理すると、XIIIのアイデンティティーについて新しく判明したことについて述べている人物はみな嘘をついているようには見えず、物証もある。しかし、最後の最後になってそれを全部引っくり返して保留するということをやっている。いったいどうやって整合性を取るつもりなのかは現時点では予想もつかない。いろいろ不満がないわけじゃないが、まだまだ目の離せない物語だ。

Rating
7/10