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SuperF*ckers

SuperF*ckers: Cover
  • SuperF*ckers
  • Author: James Kochalka
  • Publisher: Top Shelf Productions
  • Release: May 2010
  • Size: 22.3cm x 22.3cm
  • Format: Softcover
  • ISBN: 9781603090520
  • 144 pages
  • $14.95

レビュー

スーパーヒーローのチームに場を借りて、いかにもアメリカ的な若者世代の人間関係をユーモラスに風刺した漫画。以前にコミックブック風のフォーマットで刊行された表題作をすべて収録し、さらに番外篇的な内容のページを加えてまとめた一冊。

SuperFuckers はスーパーヒーローのチームで、そのふざけた名前やメンバーの品行の悪さにもかかわらず、トライアウトに多くの志望者が寄り集まるような知名度と人気のあるチームということになっている。ところが実際の彼らの様子は、およそスーパーヒーローらしいものではない。その理由の一つには具体的な敵や脅威が存在しないということがある。あえて言えば、人でも動物でもない気色悪い二体のキャラクターが登場するんだけれども、モンスターとして深刻に敵対するような関係ではなく、チームのメンバーと接触を図ることで下品な笑いの元になったり、都合よく話を進めるための仕掛けとして使われているに過ぎない。いきおい、彼らにとっては外に出て活躍する機会などなく、拠点となっている自分たちのクラブハウスにこもり切りの状態で過ごすことになる。そのことが互いの衝突をもたらし、仲間内の不和やトラブルを巻き起こす要因になっていて、結果としてこの一団は余暇を過ごすスーパーヒーローというよりは、サークルの部室で暇を持て余している学生とでもいったほうが遥かに近いありさまになっている。スーパーヒーローらしくないということのもう一つの理由としては、そもそも彼らの持つ能力がたいしたことのない代物で、現実的な活躍を期待するには頼りないということがある。例えば、自分の能力の効果の程をよく知らなかったり、上手くコントロールすることが出来なかったりといった具合だ。さらには、能力を引き出すためにはドラッグを必要としていて、完全に依存症のようになっている者もいる。連中は傍から見た分にはスーパーヒーローでも何でもない、レオタードを来た只の若者でしかない。有り体に言えば、有象無象の若者がスーパーヒーローという肩書を与えられて共同生活をしたら……という設定に基づいた学園物のような感じだ。特殊で並外れた能力や気高いプライドなどスーパーヒーローに本来備わる特徴が、ここでは誇大な自尊心や横柄な態度を引き出すための方便として使われている。その意味で、風刺されているのはスーパーヒーローコミックによく見られるようなヒーロー像というよりも、アメリカの典型的な若者像ということになるだろう。スーパーヒーローに忠実に仕えるサイドキックや熱狂的なファンボーイなど、スーパーヒーローコミックの類型やコミック文化への風刺もないわけじゃないが、割合としては部分的に留まる。

登場人物は、台詞があって何度も出番のある主立った者だけ数えても20人程いるが、その割には読んでいて混乱することなく、よく描き分けられていると言える。ほとんどすべての登場人物が口汚い罵り言葉を多用するので口の悪さは共通しているんだけれども、性格やチーム内の立場など、ほかの要素の割り振りが上手くいっている。

話の筋から見て主人公と呼べるキャラクターは特になく、その時どきの場面に登場するキャラクターをほぼ均等な距離感で描写している。どのキャラクターにも必ず人間的な欠点や弱さがあって、しかしながらその欠点を克服しようとする努力や、真摯に自分に向き合うといった内省的な姿勢など、キャラクター描写の深みがない。まるで読者の感情移入を拒むかのようにどのキャラクターも未熟でいらいらさせるような態度でもって描かれている。あえて挙げるならば、最も出番が多く、ほかの登場人物とよく絡み、番外編のタイトルにも名前が使われているジャック・クラックという男が主人公に近いということにはなる。彼は物語の途中で大いに心境の変化を伴なう出来事を経験しているんだけれども、それをもって彼の成長を描いた物語だとは到底言えない。あくまでその時どきの笑いを誘うことが描写の中心になっていて、ストーリー漫画の主人公と見なせるほど真剣にはキャラクターの心情を扱わないからだ。

この漫画のユーモアは主に下ネタやドラッグ依存などの狂態、さらに「ファック」に代表される留まるところを知らない罵詈雑言で成り立っている。とはいっても、もともと口さがない連中がいくら口汚い言葉を乱発したところで読んでいてそうそう面白くなるはずはないだろう。この点で作者は相当に工夫を凝らして言葉遣いを選んでいる。キャラクターの興奮や憤慨など感情に見合った凝った言い回しがされていて、英語を話さない僕にでもリズミカルな高揚感がそれなりに伝わってくるほどだ。また、そのような罵詈雑言を引き出すべく、さまざまな立場の登場人物との絡みのなかで神経を逆撫でするような状況がしつらえられている。

ユーモアの典型的なパターンはコントで言うところの「ボケ倒し」のような振る舞いだ。ネタとしてわざと馬鹿な言動を見せる実際のコントのそれではなく、キャラクターの持つ特徴を誇張し、根本的な状況の如何に拠らず本人の嗜好や性格を固持させるというものだ。例えば、勝ち馬にしか乗らないといった風情でチームの暫定リーダーに寄り添っていた女が、新リーダー選抜のアクシデントによって形式的にペットの不気味な生き物が新リーダーということになってしまったのち、それまで毛嫌いしていたその不気味な生き物と平気でベッドインするようになるといった類のものだ。同様の形のユーモアがドラッグ依存やファンボーイ気質などをネタにして繰り返される。

ストーリーには、チームへの加入を目指す者たちのトライアウトや新リーダーの選出、そして思わぬアクシデントから唐突に訪れる災厄など、大きな出来事がいくつかあるものの、話の筋が一本通ったというような一貫性を持った描写はない。話の筋がないと言ってしまったらおかしいかもしれないが、出来事は単純に時系列順に置かれているだけで、特に意味付けるような視点がないからだ。物語の締めくくり方のしょぼさは、ギャグ漫画だからの一言で片付けるにはちょっと寂しすぎる。

絵柄は表紙を見ての通り、みな軟体動物か何かのようにぐにゃぐにゃとしたゴム人形のようなスタイルで描かれている。極端な撫で肩と寸胴でもって幼児っぽさを感じさせるキャラクターデザインは、作中に蔓延る罵詈雑言の刺々しさを和らげる効果があると言えるかもしれない。読んでいて不思議と不快感はなかった。作者は動きを感じさせる描写や、インパクトの瞬間を捉えた力の描写などがどう見ても不得手で、本当のスーパーヒーローものに準じた迫力は期待すべくもない。

この漫画はいくつか吹き出してしまうような面白い瞬間はあるものの、総合的にはちょっと残念な出来だ。物語としては散発的な出来事を並べただけといった印象は否めないし、また狭い空間に限定されていることで世界観も窮屈で魅力に乏しい。ユーモアセンスはそのままに、もっと物語性を強め、実際の脅威と対峙する展開があればまた違った評価になっただろうと思えてならない。捨てるには惜しいが、絶賛する気にはなれない作品だ。

Rating
7/10