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Sarah Palin Rogue Warrior

Sarah Palin Rogue Warrior: Cover
  • Sarah Palin Rogue Warrior
  • Artist: Ben Dunn, Fred Perry, et al.
  • Publisher: Antarctic Press
  • Release: April 2010
  • Size: 26cm x 16.8cm
  • Format: Softcover
  • 32 pages
  • $3.99

レビュー

元アラスカ州知事であり、副大統領候補にもなったサラ・ペイリンをモチーフとしたアンソロジー。表紙を見ての通り、政治家のまじめな評伝の類ではなく、実在の人物をひたすらちゃかした悪ふざけ的なコミックブック。絵柄が本人に似せて描かれているというだけではなくて名前もそっくりそのまま使っている。こんな企画に本人から許可が下りるはずもなく、きっと勝手にやっているんだろうが、ごまかしたり、逃げを打ったりするそぶりすらないのがすごいところだ。

全ページの大半を占めているのはイラストであり、漫画の形を取っている作品は三つだけ。イラストはサラ・ペイリンをコミックや映画のヒロインに模したものや、彼女をかたどった架空のキャラクター商品のイメージなどの寄せ集めで成り立っている。気に入ったページを切り離して自分の部屋に貼る読者がいるのかどうかは知らないが、どのイラストも「ピンナップ」という扱いになっている。絵そのものはプロの仕事であって、どうこういうつもりはないけれども、見ておもしろいものではない。アラスカという土地柄と銃に象徴される好戦的なイメージでもってちゃかしているだけだからだ。これを風刺と呼んでしまったら真面目に政治風刺の一コマ漫画を描いている漫画家に失礼なんじゃないだろうか。

漫画作品のうち一つは Li'l Palin という四コマ。支持率低迷に悩むオバマがカウンセラーのペイリンに相談をするが、煙に巻かれて料金だけ請求されるという内容を子供化したキャラクターデザインでもって描いている。ピーナッツのパロディということなんだろうけれども、まあおもしろくはない。最も風刺漫画的なことをやっているのが Candidates of the Dinner Table で、これはオバマ大統領やヒラリー・クリントン、そしてジョン・マケインといった政治家たちとペイリンがテーブルを囲んで議論をするという内容。ペイリンの選挙演説へのツッコミから始まった政治的な議論のはずがテーブルトークRPGに摩り替わってしまい、それにもかかわらず一同が大まじめに語りつづけるというところにユーモアの土台がある。実際にどうなのかは知らないけれども、これはサラ・ペイリン本人の使う語彙にアラスカの自然や野生動物などに関するものが元から多くあって、違和感なくロールプレイングゲームの話に繋げられるということが前提になっているんだろうと思う。そしてモデルとなった人物たちの現実の政治の世界での発言が剣と魔法の世界観に置き換えて引用されることによってギャグになっている。これは数え上げればかなりの量になるに違いない。こういった政治家の発言や謎言はウェブで調べればいくらでも出てくるけれども、アメリカの政治の世界に疎く、正直言ってあまり興味もない僕には実際にひとつひとつ調べてみる気にはなれない。この作品で残念なのは絵の使いまわしがひどいということ。見開きの左右のページでまったく同じコマ割りで同じ絵を使い、台詞だけ入れ替えるということをやっている。絵がせっかくのユーモアを活かしきれていない。

一番の目玉は Open Season で、これは劇画といってもいいほどの荒くてくどい絵柄でもってアラスカでの知られざるサラ・ペイリンの活躍を描いたギャグ漫画。くだらないと言えばくだらないし、バカバカしい内容だけれども、実際のところ、今年これ以上なかったというくらいに爆笑してしまった。ユーモアが発想の意外性とページをめくった直後に来る大ゴマの迫力に依存しているので、読み返して何度でも楽しめるというものではない。まあ、忘れた頃に引っ張り出してきて読めばまた笑えるだろうとは思う。少なくとも、僕にとってはこれだけでも$3.99の値打ちはあった。

Rating
7/10