kosame.org

国内外の漫画を読んでレビューを書くウェブログ

Shutter Island

Shutter Island by Dennis Lehane & Christian De Metter: Cover
  • Shutter Island
  • Writer: Dennis Lehane
  • Artist: Christian De Metter
  • Publisher: Tokyopop
  • Release: January 2010
  • Size: 25.8cm x 18.1cm
  • Format: Softcover
  • ISBN: 9780061968570
  • 128 pages
  • $21.99

レビュー

映画の公開にあわせて刊行された漫画化作品。孤島の精神病院から失踪した患者の行方を求めて二人の連邦保安官が現地へ赴き、奇怪な事件の解決に取り組むというミステリー。現実と妄想の境界をあやふやにして読者を謎へ導くというこの作品の根幹をなすアイデアは決して真新しいものではないだろうし、手がかりとして扱われる暗号も陳腐であり、謎解きの技巧を主眼としてよく出来たミステリーだとはとても言えない。しかしながら、多くの人間と接触し、手がかりを獲得してゆくに連れて逆に主人公が追い込まれていってしまうという筋立てはなかなかスリリングで楽しめた。

作品の舞台となるのは、アメリカ本土から遠く離れたシャッターアイランドと呼ばれる孤島であり、連邦保安官がフェリーに乗って到着する冒頭の場面を除いて、話のすじはほぼこの島の中だけで進んでいく。島にはアシュクリフ病院のほかに人気のある場所がなく、民家すら見当たらない。人や物資の出入りが激しいはずの病院にしては非常に不便で不自然な環境に置かれていることが見て取れる。このことについては一応もっともらしい理由がある。アシュクリフに収容されているのは殺人などの凶悪犯罪を犯した精神病患者であり、隔離のための処置ということだ。しかしながら、連邦保安官の到着と前後して暴風雨が襲来し、彼らを島の中に足止めしてしまう段になると、この作品において主人公を取り囲む環境がかなりわざとらしく構築されていることに疑問を抱かずにはいられない。もともと地理的に限定された空間を、さらに自然現象によって否応なく外界と隔絶させているというわざとらしさだ。このストーリーの根本にあるアイデアは、主人公が外部の人間と会ったり、電話で話をしたりするだけで露呈してしまう大掛かりな嘘に基づいて成り立っている。これがこの作品の設定の危ういところだ。考えようによってはとても馬鹿げた話だ。

この作品が1954年という古い時代に設定されている理由は、直截に言うと現在ではもはや行われていない医療措置を登場させるためということになる。このことは、現在の医学では認められていない手術の対象とすることによってその患者を犠牲者に仕立てるという悲劇的な効果よりも、むしろ善意に基づく医療行為がストーリー全体をアイロニーに満ちたものにするという意味で大いに役立っている。序盤において主人公が聞き込みをするアシュクリフ病院のスタッフの応対からは、患者が失踪した事件について何かを隠蔽しているのではないかという疑念を抱かせる。つまり、この作品が閉鎖的な病院の暗部を抉り出す医療サスペンスか何かのように思わせる筋立てになっているんだけれども、これはそんなありきたりの単純な話ではない。病院側が悪意ではなく、善意に満ちているということが大きなポイントになっている。

筋立ては謎が解決に向かって一歩一歩進んでいくというものではなく、謎がどんどん姿を変えてゆく形をとっている。すなわち、容疑者が絞り込まれて次第に真犯人の当てがつくようになるといったものではなく、そもそも何が本当の謎であるのかということを読者に探らせていくものになっている。そのため、作者はわざとらしい暗号を出してみたり、ナチスの残党と思しき人物を登場させてみたり、手を替え品を替え読者を幻惑することに努めている。しかし、こういった謎が成立するすべての条件は、この作品の中で扱われている精神病の特異な設定に依存していて、現実には到底考えられないものだ。精神病の専門的な知識などなくとも、こんなことはありえないと誰でも思うに違いない。そういったフィクションとしての嘘を認めるかどうかで読者の評価は分かれてしまう。

僕がこの作品の中で最も気に入っているのは、終盤になって登場するある小道具だ。これはストーリーの上で別になくとも困らない物であり、わざわざこんなものを持ち出すところに作者の悪趣味が覗えてとても楽しい。また、謎を解くために提供されている手がかりのなかには、捜査にあたる連邦保安官よりはむしろ読者に対してのものがあって、これがなかなか工夫されていて感心した。ごく自然に聞こえる会話の内容がよく考えてみると意外な含みを持っているというようなものがあって再読時には驚かされた。

絵柄はかなり取っ付きが悪い。色数を限定した水彩画のようなタッチによって、人物が背景に違和感なく溶け込むいっぽうで、くっきりと縁取られたフキダシがあからさまに浮き上がって見えてしまう。まるで既製の作品の上に別の作家が描き足してパロディか何かの改変でもやっているかのようだ。話の筋の力でもって作品の中に引き込まれるまでは慣れるのに時間がかかった。さらに問題なのは、連邦保安官の二人がはっきりと区別できるようにすべてのコマで描き分けられてはいないことで、暗い場面で交わされる会話などで発言がどちらのものなのか識別するのにけっこう迷わされた。

全体が大掛かりな嘘に基づいて成り立っているため、馬鹿馬鹿しいの一言で片付けたくもなるストーリーだとも言える。それでも、大いなる善意に導かれてとんでもない悲劇に至るというアイロニーが好みなので僕にとってはそれなりに気に入った作品ということになる。

Rating
7/10