kosame.org

国内外の漫画を読んでレビューを書くウェブログ

Second Thoughts

Second Thoughts by Niklas Asker: Cover
  • Second Thoughts
  • Author: Niklas Asker
  • Publisher: Top Shelf Productions
  • Release: April 2009
  • Size: 21.5cm x 15.2cm
  • Format: Softcover
  • ISBN: 9781603090377
  • 80 pages
  • $9.95

レビュー

著者はスウェーデン人で、このところ出版社が催している Swedish Invasion と銘打たれたキャンペーンに先立つ形で刊行された作品。陰影を際立たせた白黒のページに、男女の大人の関係の機微を雰囲気たっぷりに溶け込ませたドラマ。露わに語られることのない心理のあやを鮮やかに浮かび上がらせる手法がとても巧妙だということは認めないわけにはいかない。しかしながら、読者に難しいパズルの解読を強いるような筋立ての仕組みはあまりにも不鮮明であり、完全な理解に到達するまで読解の努力を費やすに値する作品だとはお世辞にも言いづらい。

話の舞台となるのはロンドン。空港やライブハウスなど人との出逢いのある公共の場所に事欠かないと同時に、赤の他人が行き交う雑踏の中で孤独になるのも容易な空間、つまり典型的な都市空間として登場人物たちの居場所を提供している。

主立った三人の登場人物は写真家と作家、そしてミュージシャンといったようにそれぞれ専門的な職業についている。必ずしも彼らの馴れ初めがすべて明らかにされているわけじゃないが、おそらく職業を介した社会的なつながりによって知り合った関係であることが推測される。誇張してよければ、これは彼らの仕事が変わってしまえばそれっきりになるかもしれない脆い関係であるように見える。その写真家の中年男と女流作家がともに同じ女性ミュージシャンと関係を持ってしまうということが基本にあり、その不安定で緊張した関係にたいしておのおの二人がどのような態度で臨むのかということがストーリーの全篇を通したモチーフになっている。

この作品における性的関係の扱い方はとても特徴的だ。一つはレズビアンやバイセクシュアルの関係を扱ってはいるものの、作者の姿勢に気負ったところがまったくないということだ。マイノリティの価値観を擁護しようなどという意気込みもなければ、乱れた性的関係を誇示するようなケレン味もない。ごくありふれた大人同士の関係を取り上げているように見せている。もう一つは、浮気というものを倫理的に咎める外からの視点が介入して来ないということだ。同時に複数の人物と肉体関係を持っているということが第三者の立場から裁断されることがない。法律も慣習も友人からの配慮なども邪魔をせず、あくまで恋愛の当事者にとっての心情を追うことに徹している。このような扱い方によって、保守的な価値観から見れば不穏当に違いない関係を、決して声高にならない控えめなトーンではあるけれども、恋愛関係の本質を逃さない視点から描ききることが出来たと言っていいんじゃないかと思う。

三人の男女のあいだにおける親密さや疎遠の関係は、おもにそれぞれの居場所に基づいて如実に感じ取られるようによく描かれている。居心地の良さや悪さということが満ち足りた、あるいは満たされない愛情の発露のように示唆的に使われていて、このことは視覚的な表現のうえでとても効果を発揮している部分であり、またロンドンのような都市を舞台にしていることが設定としてよく活きてくる部分でもある。携帯電話で恋人と話をしながら部屋の中をうろつく小説家を一人称視点で描いていき、剣呑で微妙な雰囲気が会話を終わらせた直後、視界は窓ガラスに映った本人のおぼつかない顔つきを捉え、さらにその窓の外の荒涼としたロンドンの夜景へと移り変わる。セリフはなくとも一つの恋愛関係の破綻がはっきりと読み取れる。この小説家の場合と同じ相手と関係を持ってしまう写真家の中年男についても同様に一人称視点を上手く使っている。ロンドンに住む女性との別れを念頭に置いた彼が、自身もロンドンに住んでいるにもかかわらず、もはや住み慣れた自分の故郷のように感じられなくなり、ホテルに部屋を取る。一人きり部屋の中でいたたまれない思いを募らせる様子を表現するのに、一人称視点でテレビのチャンネルが切り替わっていくコマを並べている。

写真家の中年男と女流作家が同じミュージシャンの女性と関係を持つという設定からは、まるで三角関係のストーリーであるように思われるけれども実はそうではない。写真家と作家とは空港で偶然に出会ってほんのひととき会話を交わしただけの関係だ。双方と肉体関係にある女性ミュージシャンがいったいどちらを択ぶのかというようなことが問題になるのではなく、一度きりしか会っていないふたりが互いに影響しあうということが筋立ての大きなポイントになっている。一度きりしか会わない相手にどうやって影響を及ぼすのかということはこの作品の大きなトリックの根拠でもある。

この本は一読すると誰でも気づく奇妙な矛盾が終盤に用意されている。この矛盾をどう解きほぐし、整合性のあるストーリーとして全体を理解するかということが読者に突きつけられたパズルのような課題になっている。これはなかなか難解であり、解読をあきらめて投げ出す読者がいても不思議ではない。実際のところ、僕もこの本のレビューを書くために何度も読み直してやっとのことで気がついた次第で、はじめはまったくわけがわからなかった。一度わかってしまえばどうってことのない代物なんだけれども。一応、作者はヒントをあちこちにばらまいてくれてはいる。どう見ても同一人物としか思えないキャラクターが二通りの名前で呼ばれていること。二つの部屋がパッと見は非常によく似ているが、よく注意して見比べてみると明確に別々の部屋であることがわかるということ。心理描写の重点の置き方からして写真家の中年男が主人公のように思われるにもかかわらず、表紙に描かれているのが小説家の女性であるのは何故なのかということ。こういったことから導き出される解釈は一つしかなく、疑問点をひとつひとつ挙げていけばおのずから解けるようにはなっている。しかしながら、こういった手の込んだトリックはむしろ推理小説好きの読者が喜ぶ類のものであり、内省的な大人の男女の機微を扱ったこの作品のテーマにそぐわない、興醒めなほどの過度な技巧に思えてならない。その意味でテーマと手法のバランスが微妙な、ちょっと残念な作品という結論になってしまう。

Rating
7/10