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国内外の漫画を読んでレビューを書くウェブログ

2009年の総括

年末不定期恒例の総括。といっても、今年は外国漫画のレビューしか書いてないので割り切って外国漫画に限定した寸評。今年発売されたものとは限らず、僕が2009年のあいだに読んだものが対象。少なくとも一度は最初から最後まで読み通した作品をおもしろかった順に挙げてみた。もともとレビューには評価の点数をつけているからその点数の順に並ぶかというと必ずしもそうではない。もう一度すべての作品に目を通している暇などなく、今の時点での記憶に基づいて書いているので。

2009年に読んだ外国漫画

  1. Miss Dont Touch Me by Hubert & Kerascoët
    Miss Don't Touch Me

    間違いなく今年最高の掘り出し物。これに出会えただけでも手当たり次第に外国漫画を買い漁った甲斐があったというもの。猟奇殺人の真相をめぐるミステリーなんだけれども、オーソドックスな推理ものとは違って、探偵役として立ち回る主人公が自分自身では事件を解決することが出来ない。分不相応な活躍をさせないリアリズムがとてもいい。このシナリオライターの作品をもっと読んでみたい。

  2. Far Arden by Kevin Cannon
    Far Arden

    架空の北極圏カナダを舞台にした海洋冒険漫画。伝説の島の所在を巡って争う中年男たちの物語。積年の三角関係や打算的な出世欲、歪んだライバル意識など、再会した旧友同士ならではの友情とその後の変貌を下敷きにして、敵と見方が入れ替わるシーソーゲームのような目まぐるしい筋立てを巧妙に作り上げている。序盤の余りにもお粗末な出来が残念だけれども、それを差し引いても傑作というほかない。

  3. The Big Skinny: How I Changed My Fattitude by Carol Lay
    The Big Skinny: How I Changed My Fattitude

    自身のダイエット体験を綴ったエッセイ漫画。ただ体重を減らすためのノウハウを描いているのではなく、自分の体への配慮が自尊心の獲得にもつながっていることを率直に表していて感動的。ありふれた体験記としてのダイエット漫画が肉体を懸けているというのなら、この漫画は存在を懸けている。

  4. Saga of the Swamp Thing, Book One by Alan Moore, et al.
    Saga of the Swamp Thing, Book One

    生化学実験の犠牲となり、怪物スワンプシングへと変身した男の物語。藁半紙の束を豪華なハードカバーにくるんだような変な本。スワンプシングというキャラクターの設定が明かされる序盤はおもしろかったけれども、後半はどうでもいい脇役の話が中心になってしまい残念。バットマン:キリングジョークというアンソロジーに#21だけ収録されているということは、やはりこの漫画がおもしろいのは最初だけなんじゃないかというふうに危惧せざるを得ない。

  5. The Laugh-Out-Loud Cats Sell Out by Adam Koford
    The Laugh-Out-Loud Cats Sell Out

    多くのネタをインターネットミームから採った一コマ漫画集。およそギークらしくないほのぼのとした絵柄とのギャップがユーモラス。

  6. Little Nothings Vol. 2: The Prisoner Syndrome by Lewis Trondheim
    Little Nothings Vol. 2

    著者の普段の生活のなかのエピソードを描く漫画の第2巻。第1巻ほどではないけれども、そこそこ楽しく読めた記憶がある。人によっては取るに足りないこととして特に書き留める気にもならないような小さなことを拡大しておもしろく読ませる作品。

  7. The Killer #9-#10 by Jacamon & Matz
    The Killer #9The Killer #10

    非常に残念な終わり方。最後に何か大きなヤマがあるのかと期待して読んだら尻つぼみ。殺し屋の主人公がこれまでの自分の信念を再確認し、正当化しただけで終わってしまった。意外性も何もない。キャラクターは最高だが結末は最低といっていい。

  8. The Nobody by Jeff Lemire
    The Nobody

    田舎町を訪れた包帯男にたいする街の人びとの偏見や排他的な姿勢を批判的に描こうとしているんだけれども、その試みがあまり上手くいったとは思えない。むしろ、主人公の無責任と利己的な姿勢が印象に残った。

  9. Second Thoughts by Niklas Asker
    Second Thoughts

    写真家とミュージシャンと作家の三人が絡む大人の関係を描いた漫画。絵柄は僕の好みで、都市生活の喧騒と内面の沈思黙考の対照を雰囲気たっぷりに描くスタイルがとてもいいと思う。しかしながら、肝心のストーリーのポイントがよくわからない。一人称視点に固定された描写が混乱の元になっていて、再考してもはっきりしない点が多い。

  10. Gigantic Robot by Tom Gauld
    The Gigantic Robot

    巨大なロボットの建造とその後の荒廃でもって、文明の興亡のはかなさを風刺した漫画。大判のページの物理的な大きさを利用した大ゴマが有無を言わせぬ強烈なユーモアの元になっている。ごく単純なことを表すのに随分と贅沢に紙を使っている自由な漫画だ。

  11. Nine Ways to Disappear by Lilli Carré
    Nine Ways to Disappear

    歌手を中に閉じ込めた巨大な貝から取り出された真珠の玉が、まるで持ち主を呪う宝石の伝説のように次つぎと場所を変えて受け継がれていく話がおもしろかった。とても短い作品であるにもかかわらず、もう終わるだろうと思えてもさらに話が続いていく感覚に不思議と魅了された。良いシュールレアリスム。

  12. Speak of the Devil by Gilbert Hernandez
    Speak of the Devil

    体操選手の女子学生の家庭の問題と、街を騒がす覗き魔の正体を絡めて描く変な漫画。とても体操向きとは思えないボディビルダーのような体型のキャラクターデザインが気になって仕方がなかった。それよりもさらに妙なのは、終盤になってやたらと人が残酷な仕方で死にまくることでまったく意味がわからなかった。 Love & Rockets の著者だということを知っているからこそ、こちらはただ困惑するだけなんだけれども、そうでなければこの著者は執筆中に頭がどうかしちゃったんじゃないかと揶揄したくなるほどだ。

  13. Ball Peen Hammer by Adam Rapp & George O'Connor
    Ball Peen Hammer

    法秩序が失われた世界で人びとが生きるためにやむを得ず、倫理的にまずいことに手を染めてしまうという、そのギリギリの判断に説得力をもたせるだけの設定が読者に対して充分に説明されていないことがいちばんの問題点じゃないかと思う。

  14. Remake by Lamar Abrams
    Remake

    中学生くらいの子供がスーパーヒーローのように振舞うギャグ漫画。主人公の強さや、作品世界の秩序を構成する設定がどこにリアリティを置いているのか曖昧で、エピソードによって恣意的にコロコロ変わっているように思え、あまり腰を据えてのめり込めなかった。

  15. Jam in the Band Vol. 1 by Robin Enrico
    Jam in the Band Vol. 1

    ミニコミック。若い女の子三人のバンクロックバンドの活動を描く。音楽漫画というよりは、生まれ育った田舎町を何としても出たいという気持ちに焦点をあてた青春漫画。その意味ではおそらくありふれたモチーフを取り上げたに過ぎないといえるのかもしれない。しかし、主人公の鬱積した情念はかなり強烈で、ほとんどアイコン化されたような簡略なキャラクターデザインにはおよそ似つかわしくなく、生なましい感情とのギャップに驚かされた。とはいえ、表紙をデザインする分にはともかく、実際の漫画のページをこのキャラクターデザインで読ませられるのはかなり単調できつく感じる。

  16. Daybreak Vol. 3 by Brian Ralph
    Daybreak Vol. 3

    戦争の後の荒廃しきったような世界でのサバイバルを描く漫画の最終巻。一人称視点の人物の正体は結局のところ僕が期待していたような驚くべきものではなかったのが残念。物語の上でも淡々と終わってしまった。

  17. The Bun Field by Amanda Vähämäki
    The Bun Field

    熊が車を運転したりするシュールな漫画。どこをどうおもしろがって読めばいいのかさっぱりわからなかった。この作者が必要としているのは読者ではなくカウンセラーか精神分析医なんじゃないかとおちょくりたくなる。駄目なシュールレアリスム。