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Ball Peen Hammer

Ball Peen Hammer by Adam Rapp & George O'Connor: Cover
  • Ball Peen Hammer
  • Writer: Adam Rapp
  • Artist: George O'Connor
  • Publisher: First Second
  • Release: September 2009
  • Size: 21.6cm x 15.5cm
  • Format: Softcover
  • ISBN: 9781596433007
  • 144 pages
  • $17.99

レビュー

戦争で秩序が崩壊し、暴徒や野犬がのさばる荒廃した都市における生存競争を極めて残酷で辛辣な皮肉として描く寸劇的な漫画。粗暴で下劣な言動を繰り返す一部の登場人物にはうんざりさせられるものの、その背景となっている苛酷な生活環境ならではの人間性の現れを見いだすことのできる筋立てにはなっている。とはいうものの、作品中の最大の謎であり、登場人物のすべての行動に決定的な影響力を持っている組織の実態については、その権力の背景や目的などがほとんど明らかにされないままになっている。物語の隅ずみまで読み直したあとでも多くの疑問が残り、結局のところ消化不良の読後感をぬぐえないのが残念なところだ。

主な登場人物たちは四人で、同じビルディングの一階と最上階に二人ずつ別れた形で居座っている。物語の初めから終わりまでほとんどこのビルの中だけで話が進んでいくのは、屋外があまりにも危険だからという事情もあるけれども、根本的な理由としてはそこで行われているとある計画が関係している。この計画に実際に身をもって参加する一階の二人と、計画については部分的な情報しか知らない最上階の二人とに分断されて互いにほとんど交流のないことが筋立ての上で大きな意味を持たされている。しかしながら、この設定の詳細が読者に対して説明不足であり、恣意的に用いられているように思える。計画は残酷で非人道的なものであり、また参加者に報酬が与えられるわけではないにも関わらず、どうして一階の二人は自発的に参加することを決めたのかという疑問が残る。計画への参加と引換えに安全な場所を提供というのがもっともらしい答になりそうだけれども、作品のなかで描かれてる分にはそうとも思えない。外部からの暴徒の襲撃に耐える堅牢な施設というわけではなく、そこに食料が用意されているわけでもない。ただ雨風を凌げるだけの場所に過ぎないように見える。また、こういった組織が暗躍することができるような社会の混乱の大本であるはずの戦争については単に屋外の大局的な状況を説明するための口実として使われていて、開戦の理由や戦況など、そしてそもそもどこの国が戦争をしているのかということさえ明らかにされていない。二つのグループが限定された空間にこもってほとんど動かないというこの設定は、そのようにたいして説得力がない割に、かなりの程度に依存する形で話のすじが進められている。計画に参加する一階の二人のうち一人は別れた恋人を探していて、実はそれが最上階の一人であり、身近にいながら再会を果たせないということが物語全体のなかで最も皮肉な運命のように描かれている。さらに、計画の実態をよく知らない最上階の二人が計画に参加していないにもかかわらず、結果的に同様の残酷な事態に陥ってしまうということがもう一つの皮肉な運命となっている。

絵柄は社会の荒廃と伝染病の蔓延などを描くのにふさわしい、粗くささくれたような線で描かれている。ところどころ現実にはありえないような誇張をあしらっているのが目を引く特徴で、表紙の女の極端な内股の姿勢や、謎の組織の一員が上半身だけ極端に膨れた筋肉質の体型を持っている点など、滑稽にならない程度に部分的に巧く取り入れている。立体物の遠近の表現はあまり得意ではないようで、開いたドアの手前と奥の空間を区別する表現が曖昧でパッと見ただけではよくわからなかったりする。

少ない登場人物がそれぞれ断片的に持ち寄った情報を元にして読者に全体の状況を推測させるような描き方である割には、深読みの甲斐があるほど複雑で深い人間の営みを描いているとは言いがたい中途半端な作品だ。

Rating
5/10