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Far Arden

Far Arden by Kevin Cannon: Cover
  • Far Arden
  • Author: Kevin Cannon
  • Publisher: Top Shelf Productions
  • Release: June 2009
  • Size: 18.3cm x 14cm
  • Format: Hardcover
  • ISBN: 9781603090360
  • 384 pages
  • $19.95

レビュー

北極圏のカナダを舞台に、ファーアーデンと呼ばれる伝説の島の在り処をめぐって争う人びとを描いた海洋冒険漫画。取っ付きはかなり悪いものの、ダイナミックで入り組んだ人間関係のおかげで尻上りにおもしろくなっていく。結末は多数の読者の支持を得られるものではないに違いないが、それでも細かく広がった話のすじをほころばせることなく、すべて拾い上げてそつなくまとめている。これはそこそこの傑作と呼んでいい作品じゃないかと思う。

この作品の設定にはちょっとひねった部分があって初めて読む読者を戸惑わせる。表紙をめくってすぐの見開きのページには島や入江の名前がびっしりと書き込まれた地図が載っている。いかにも西洋風のロールプレイングゲームさながらの趣に、僕はてっきりこの漫画を作者の想像による架空の世界のものかと勘違いしてしまった。ウェブで調べてみればすぐわかることなんだけれども、この地図は北極圏カナダの実際の海岸線をなぞっていて、陸地や海峡の名称もそのまま踏襲している。それでは、作中で伝説の島とされているファーアーデンを除いてほかはすべて現実世界のカナダを模しているのかというとそうではない。ここに登場する船舶はどれも旧式の帆船ばかり。また、巡業中のサーカスでは人権をないがしろにした時代錯誤的な見世物が堂々とおこなわれている。それでは、舞台をカナダに置いて、時代だけ古く設定しているのかと思いきや、「地球温暖化」による自然環境への影響を問題とする学術研究的な背景が作中でしばしば言及され、また現代的なというよりもむしろSF的と言っていい高度な医学装置も登場する。このように新旧を織り交ぜた時代背景は単に都合よく話を作り上げるためのいいとこ取りに過ぎないと見なすことも出来る。実際のところ、中途半端に現代的な時代設定のおかげでこのストーリーが成立しているのも事実だ。登場人物が携帯電話を持っていたらこれほど複雑に人間関係が入り乱れることはなかっただろうし、人工衛星からの撮影を利用することができたならば未踏の島の在り処が問題となるこのストーリーの根幹がそもそも成立しなかっただろう。

主人公のアーミー・シャンクスは元海軍のお尋ね者で、伝説の島とされているファーアーデンの実在を信じて今まさに航海の旅に出ようとしている。彼のほかにもファーアーデンの発見を企てている男が三人いるんだけれども、その伝説の島への手がかりを持っているのが唯一シャンクスのみであるため、残りの三人がその手がかりを狙ってシャンクスに接近するという関係になっている。三人はそれぞれ社会的な境遇が異なり、あるものは実力行使で、あるものは公権力に物を言わせ、またあるものはもっと狡猾に罠に陥れるべく画策する……といったようにシャンクスへのアプローチの仕方が異なっていて、これがこのストーリーを海賊同士の武力紛争のような単純なものにさせず、争いをさまざまな社会的関係のもとに展開させ、ストーリーをバラエティに富んだものにさせている。

冒険漫画といっても過酷な自然と闘って打ち勝つという要素はほとんどなく、人間社会での争いがストーリーのほとんどを占めていてる。そのため、ファーアーデンを探し求めて争う人びとの対立や葛藤にけりがついた頃にクライマックスを迎えるようになっている。その意味ではこの作品は冒険譚というよりもあくまで人間ドラマといったほうが適切かもしれない。

Rating
8/10