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The Killer #9 A Deadly Soul Part One

The Killer #9 A Deadly Soul, Part One: Cover
  • The Killer #9 A Deadly Soul, Part One
  • Author: Luc Jacamon & Matz
  • Publisher: Archaia
  • Release: July 2009
  • Size: 26cm x 17.5cm
  • Format: Softcover
  • 32 pages
  • $3.95

レビュー

Archaia Studios Press改め、Archaiaより一年ぶりに刊行されるシリーズの最新刊。続篇まで含めて翻訳されることが既に決定しているとはいえ、もともとは五巻の本で一区切りがついていたシリーズなので、一巻を二つに分割しているこの刊行形態では次の#10で一応の結末を迎えることになっている。これまでに主人公の殺し屋、及び読者に対して投げかけてきた疑念を解消し、真の黒幕の正体へ迫るという筋立てそのものは、大詰めを間近に控えたストーリー漫画として当然の展開だけれども、お世辞にも盛り上がりを見せているとは言えない。あと32ページで満足のいくような結末に至るとはなかなか期待のしにくい、穏やかで控えめなお膳立てに留まっている。

僕のいちばんの不満はさまざまな謎の解明が殺し屋のキャラクター造形とは無関係に進んでいるということだ。殺し屋が自らに課している独特の矜恃と信条は、実際に闇の世界に生きる彼が必ずしも順応できるものではない。折に触れて表に現れ、彼を支配する狂気の衝動と彼の意識とのずれがこの主人公の個性の源であり、作品のテーマにも深く関わっているんだけれども、そういったキャラクター造形になんら影響することなく、すらすらと謎が解明されていくので拍子抜けしてしまう。殺し屋を取り巻く身近な人間関係はすっきりしてしまった。いったい誰がどんな理由で自分を裏切っているのかと、これまでさんざん彼の神経を悩ませたのはただの取り越し苦労だったのかと落胆させる。同時に差し迫った身の危険は解消したわけで緊張感も失せてしまう。もうひとつ、序盤から引きずってきていた大きな懸案があって、それは実は殺し屋が取り返しのつかない間違った判断を下してしまい、その真実がいつか明かされるのではないかというものだったんだけれども、どうやらその線も話の筋に上って来そうにない。

今回の話が今ひとつ盛り上がりに欠ける理由として、筋立ての上では謎解きがビスケイという名の重要人物への尋問によってただ口頭で語られてしまっている点が挙げられる。表紙に描かれているのがその場面であり、極度に緊迫した雰囲気が漂い、クライマックスにふさわしい迫力に満ちているように見えるけれども、実際にここを読んでみるとそれほどでもない。理屈の上ではさまざまな謎が解明され、人物の意図や動機など合理的に説明がつき、あとには何も疑問を残していないんだけれども、その過程がおもしろくとも何ともないからだ。また、その尋問へと至るまでの身辺調査や居所を襲撃する手口も滞りなくスムーズに進んでしまっていて、派手なアクションシーンを描くわけでもないので盛り上がりようがない。

登場人物について言うと、アントワーヌという警察官がなぜこのシリーズの途中から出てきたのかよくわからなくなってしまっている。彼は主人公の殺し屋としての素性を知らない善意に満ちた隣人として現れ、瞬く間によき友人となり、親交を深めていくキャラクターで、当然のことながら現職の警察官という身柄から主人公にとって非常に危険な存在だった。しかし、彼自身の事情もあって、もはや主人公の正体を知ってもそれほど驚かないんじゃないかとさえ思えるほど心情的に近い立場に来てしまっている。いざ正体が発覚したときにアントワーヌが法の正義を取るのか、友情を取るのかという疑問がスリルの元でもあったんだけれども、その緊張関係も今回の話に何ら影響を及ぼしていない。マリアーノと同様、殺し屋と絡ませることによって彼のキャラクター造形をさまざまな側面から支える役割を担っていて、その点では結構なんだけれども、それだけに留まっていて重要な話の筋に乗ってこないのが惜しい。

絵柄については、場面ごとに赤や青、セピアなど基調となる色を変えて雰囲気の違いを強調していることが嫌でも目につく。しかしながら、ことさらに時間の経過と場所の転換とを錯綜させたページ作りは、出来事そのものがかなり単調に進むんでいく今回の話ではとても効果的とは思えない。むしろそれだけ頻繁に場面が転換することに気だるささえ覚えてしまう。

32ページという細切れで、しかもかなりの不定期で刊行されるこのシリーズをここまで追って来て今さら続きを読むのをやめる気などまったくないけれども、結末にはあまり期待が持てそうにない。

Rating
6/10