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The Killer #8 Blood Ties Part Two

The Killer #8 Blood Ties, Part Two: Cover
  • The Killer #8 Blood Ties, Part Two
  • Author: Luc Jacamon & Matz
  • Publisher: Archaia Studios Press
  • Release: July 2008
  • Size: 26cm x 17.5cm
  • Format: Softcover
  • 32 pages
  • $3.95

レビュー

出版元が人員整理やら買収の噂やらでゴタゴタして刊行が長いこと滞っていて、半ば完結をあきらめていたシリーズなんだけれども、最近になって再び軌道に乗ったらしいのでレビューを続けてみることにした。この#8では殺し屋の愛人を襲撃した一味への報復が描かれ、さらに彼らの背後に潜む人脈について部分的ながらもその身元が明かされる。これまで読者に抱かせてきた殺し屋の同朋への疑惑をある程度解消するとともに、本当の意味での黒幕の背景を政治家や財界人の暗躍するパリの社交界にまで及ばせたことによって、話のスケールが社会的に広がったいっぽう、裏切りの存在が仄めかされてきた主人公近辺の人間関係における意外性は薄くなってしまった。とは言え、この物語の冒頭から主人公を陥れつづけた根本的な疑惑についてはまだ何もはっきりしていないので、とりあえず先の展開に期待して待つほかないといった感じだ。

殺し屋の愛人を襲撃して別荘を破壊した謎の男たちはマリアーノらのコロンビア人組織によって捕らえられ、当然のことながら殺し屋自身の手にゆだねられることになる。はたから見れば残虐極まりない、しかし殺し屋稼業の常からはごく当然と思えるその処刑が、彼の胸のうちではそう単純ではない理屈が語られる。普通に考えれば、怒りや憎悪にまかせて殺してしまうのが自然に思えるところへ、例によって彼はプロの殺し屋としての信条に基づいて意外なほど冷徹な判断を示してみせる。しかし、すでにマリアーノたちによって拷問が行われていて、それ以上は情報が引き出せないとわかったいたので、あとはもう殺してしまうほかにない状況のもとに殺し屋は置かれている。もし殺し屋本人が独りで下手人たちを捕らえていたのであれば、命は奪わず逃がしてやったかもしれないというのは意外というほかない。そして、自らの手で連中を殺すに際してもまたもや独特の死生観を持ち出して変わった理屈付けをしている。ただ息の根を止めて始末するためならば拳銃の弾を一発ぶちこめば済むところをあえてナイフでもって残虐に切り刻むというのは、普通に考えれば憎悪にまかせた復讐でしかないだろう。しかし、彼にとってそれは端的に言い換えるなら、処刑ではあっても報復ではないということになる。しかしながら、作者はこの殺し屋をその処刑の瞬間に臨ませるにあたって、彼の語る理屈とは裏腹な残虐な殺人の衝動を駆り立てさせることによって、彼自身を驚かせている。プロの殺し屋として自身に課している信条が必ずしも彼の内なる本質のようなものと同調しないという、これまで重ねて展開されてきたこの作品のテーマにかかわる問題をここでもぶりかえしている。

現職の警察官でありながら殺し屋の善良なる隣人として登場したばかりのアントワーヌは、おとり捜査でもやっているんじゃないかという胡散臭さがここに来てすっかり消えてしまい、本当に善良な一市民に過ぎなくなってしまったかのようだ。殺しの世界において主人公に最も近い位置にいるマリアーノは今回の銃撃戦でふたりそろって命からがら逃げおおせたという事実から、これも殺し屋を裏切っている線はなさそうだ。つまり、すでに読者に対して明かされた殺し屋の身近な人間関係には密かな裏切りといった疑惑はなくなってしまったように見える。また謎の全体像が見えないため、はっきりしたことは言えないが、そこがちょっと興醒めだ。

補足

マリアーノがいるコロンビア人組織の親玉のことは、本文でPadrinoと書かれているんだけれども、これがイタリック体であることを妙に思いながらも特に気にせず、そういう名前なんだとばかり勘違いしてきた。どうやらスペイン語でゴッドファーザーにあたる語で、要するに「後見人」ということらしい。今更ながら確認した。

Rating
6/10