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The Killer #5 The Debt Part One

The Killer #5 The Debt Part One: Cover
  • The Killer #5 The Debt, Part One
  • Author: Luc Jacamon & Matz
  • Publisher: Archaia Studios Press
  • Release: October 2007
  • Size: 26cm x 17.5cm
  • Format: Softcover
  • ISBN: 1932386475
  • 32 pages
  • $3.95

レビュー

心の奥底に自らを滅ぼしかねない狂気を秘めた孤独な殺し屋の生き様を描くノワールコミック。オリジナル版の3巻目の前半にあたる。元の雇用主と訣別して独り身になった主人公が、程なくして新しいボスに半ば強制的に雇われることになり、あてがわれた相棒とともに初仕事に取り組むというエピソード。これまでの奇数番のイシューと同様に、今回も大きな出来事を導入するためのお膳立てに相当する部分だけを収録しているように思える。直前のイシューがこれまでのストーリーの最大のクライマックスを含む内容だっただけになおさら新展開のさわりだけ読まされている感が強い。それでも、このシリーズには珍しいユーモアがあり、またこれまでは単に主人公の気慰みの相手ほどの意味しかなかった愛人について意外な側面も見ることができて、それなりに読ませる内容になっている。

殺し屋に対して新たに契約を持ちかけたのはパドリーノというコロンビア人の富豪で麻薬密売組織を率いる男。契約の受諾について選択の余地はないと強引に迫りながらも、扱いは丁重で支払いも良い。彼が殺し屋に接触するきっかけとなったのは、以前殺し屋が手がけた弁護士殺害の件であり、その背後にまだ語られていない事情が潜んでいることを匂わせている。マリアーノは麻薬の密売人。決して若くはないけれどもパドリーノに庇護される立場にあり、殺しの仕事の見習いという目的も兼ねて主人公に付き添うことになる。彼は気さくでおしゃべりな性格であり、決して愚鈍ではなさそうだけれども、孤独と自由を尊重する殺し屋に疎まれたとしても無理はない男。しかし、そのおしゃべりに殺し屋を付き合わせることによってこの無慈悲な殺人稼業を題材とする漫画に一抹のユーモアをもたらしている。映画のなかで殺し屋がかっこよく描かれる一方で麻薬の密売人がひどい扱いを受けているのはどうしてなのかというささいな疑問と不平に始まって、この無愛想な殺し屋の口からジョークを吐かせるにまで至ったのはひとえに彼の通俗的な関心のなせる業。

殺し屋が新しい雇用関係をどう受け止めているのかということについての一連の描写には一見すると互いに矛盾しているようにも受け取れる恣意的な弁明がある。初仕事を請け負う前には新しい環境への適応こそが生きのびる鍵となるものだというような論理でもって肯定していたのに対して、仕事を片付けた後には早くも将来の離反を仄めかすことを言っている。初仕事の首尾は上々。付き添いのマリアーノも足を引っ張ることなく済んだ。報酬も自分の言い値どおり。表面的に描かれている限りでは、文句を挿む余地のない雇用関係に思える。彼の言い分は、ルールに従うことによってリスクなしに庇護される関係に自分は甘んじていられないというもの。契約とはそういうものじゃないかとか、そんなことは契約する前に予期できたことじゃないかとか突っ込みたい気持ちが湧いてこないこともない。それでも、自分が打ち負かされるかもしれない危険に進んで身を置きたいという逆説的な理由付けの根本に、孤独と自由が表裏一体をなす殺し屋のこれまで通りの信条があると思えば決して不思議なことではない。

これまで殺し屋の愛人は話のすじの上で大した役割を担わず、彼の心労を癒すための存在でしかなかった。穿った見方をすれば、肌の露出でもって読者の目を引くお色気担当のキャラクターだったと言ってもいい。今回の話でも置かれている立場に変化はないんだけれども、殺し屋が彼女のことをどう思っているか語らせることによって、彼独特の人間関係の取り方が露わになっている。ふたりきりでありながらも互いに相手を深く知ろうともしない、傍目には空虚に見えるが本人は充足しているというこの相反的な関係の叙述を、著者は高級ホテルのプールで戯れあうふたりの官能的でみずみずしい作画と対照させることによって効果的に演出している。

愛人についてはさらに殺し屋との関係で明かされる事実があり、マリアーノの軽率な性格を利用することによってうまく話のすじに絡まってスリリングな展開をもたらすことに成功している。男が裏の世界で殺し屋稼業を営んでいることをその愛人が実際どこまで知っているのかということについてはこれまで読者に対して曖昧なままにされてきた。一応はうまく隠しおおせてきたらしいことが明らかになり、同時にそれがいま露呈してしまう危機にあることも示される。男が殺し屋であることを既に知っている読者の側からすれば、相手が闇の世界の住人であることをどう受け入れるかという女の側の覚悟と、正体がばれたことをどう言い訳するかという男の懸念との問題に収束しそうに思えるところを、実はどちらにとっても大した問題ではないという方向に切り返して読者を驚かせる。ふたりの会話は隠されていた事実を追及しようとする女の問いと、うまく言い逃れすべくつとめる男の答えであるかのように進んでいき、最後にそれが即興の小芝居ででもあったかのようなオチへと導く意外なもの。しかしながら、一緒にいると同時に孤独でもあるという即かず離れずの奇妙な関係を保つ男にふさわしく、この女もまたありふれた恋愛感情から超然としていることを示していて、驚くと同時に納得もさせてしまう描写になっている。

全体としては、主人公に対して強引な契約を迫るパドリーノや、いかにもそそっかしいマリアーノといった対立を引き起こしそうな新しいキャラクターの登場にもかかわらず、大して波風の立たない穏やかな話に終わっていると言える。それでもやはり一つの巻を半分に切って収録しているという事情を思えば仕方がない。

Rating
7/10
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これは海外の漫画について書いたkosame.orgのレビューのひとつで、2008年8月16日に公開されています。その他のコミックレビュー同じ年に書いた記事のアーカイブなどもご参照ください。

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