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5 is the Perfect Number

5-is-the-perfect-number by Igort: Cover
  • 5 is the Perfect Number
  • Author: Igort
  • Publisher: Drawn and Quarterly
  • Release: November 2003
  • Size: 29.5cm x 22cm
  • Format: Softcover
  • ISBN: 1896597688
  • 176 pages
  • $19.95

レビュー

5 è il numero perfetto の英訳版。著者はイタリア人。第一線をとうの昔に退いたマフィアの老人が、殺された息子の仇を討つために再び血で血を洗う世界に舞い戻っていくという話。勇敢とも無謀とも言える命懸けの戦いに際して自らを鼓舞し、あるいは恐怖におののく老人の感情の揺らぎにはある程度のリアリティはあるものの、ストーリーの単純さは否めない。また究極的にはたった一発の弾丸で生死が分かれるはずの殺し合いの世界に神の啓示のような神秘的な現象をご都合主義的に持ち込んでリアリズムを損ねてしまう作風にも納得しかねる残念な漫画。

話の舞台となるのは1972年のイタリア。ペッピーノはかつてナポリを拠点とするマフィアの一員として銃弾の飛び交う激しい抗争に明け暮れた男。頭が禿げ上がるほど年老いた今では、引退も同然の穏やかな生活を送っていて、同じくマフィアとしての活躍が嘱望される若い息子を見守る立場にある。

ペッピーノは自身のマフィアとしての半生を、組織に従属して命令のままに働く従僕のようなものとして受け止めていた。しかし、息子の殺害を機に行動を起こしたことが結果的に組織への反逆につながり、独立して復讐を目指すことを余儀なくされる。このペッピーノの勇気ある決断が辿らせる道のりは決して平坦ではなく、結果的には苦渋と後悔の入り混じった心境に彼を置くことになる。そこがこの作品の中で最もよく描けている部分だ。

組織から独立し、ルールに背いて生きる道を探るペッピーノの姿勢は彼を助けるべく行動をともにする仲間たちに影響を与えることになる。従属に甘んずることなく、自由を目指すというのは聞こえはいいかもしれないが、これはマフィアの世界の話だ。組織に逆らうということは自ら死刑宣告を望むようなものであって身の危険を伴う。彼の仲間にはマフィアでも何でもない一般人もいる。そういった仲間の命を危険にさらしてまで自分個人の復讐にこだわるべきだろうかという問いがある。それからもう一つ、実際にどのように復讐を遂げるかという問題がある。殺された息子の復讐をするということは要するに下手人を捕らえて私刑に処するということであり、これはそれ相当の覚悟を必要とするものだ。銃撃戦のさなかに運良く弾が当たってくれて死に至らせるということとは違う。命乞いをする無抵抗の人間を殺すということの非情さ、残酷さに耐えかねるその場の雰囲気を著者は何行もの叙述を費やしてよく書いている。

ストーリーについては、おのおのの場面を抜き出してペッピーノの心情に注目してその根拠を考慮すると決して不自然さはなく、それなりのリアリティを持って描かれていると言っていいと思う。しかし、一ページ目から順繰りに読んでいく読者の立場からすると話のすじはペッピーノの心情の変化を納得させるに十分な描かれ方をされているとは言えない。彼があるときは勇猛果敢であるときは急に臆病風に吹かれたかのように思えてしまう。また、血の涙を流すマリア像や身の危険を知らせる神の啓示(?)のような神秘的な現象を何の現実的な説明もなしにこのマフィアの抗争を中心とするストーリーの一部としてしまうのはわけがわからない。特に登場人物の命にかかわる危険があるような深刻な場面に組み込んでしまうのはどうかと想う。話のすじは終盤になってから読者の予想し得ない真実を披露して驚かせる。しかしながら、これは取って付けたような安直なものであり、それまで話のすじにまったく絡んでなく、あまりにも唐突で恣意的なため、興ざめというほかない。

タイトルにもなっている 5 is the Perfect Number という謎めいた文句はこの作品のテーマに大いに関係しているキーワード。しかし、とりわけ深いことを意味しているわけではない。数学上の真理とも何の関係もない。至極単純なことをある登場人物の口を借りてもったいぶった表現にしているだけだ。著者にもその作品にも不案内な読者を釣るのに充分なくらいには意味深長に響くかもしれないが、実際に読んでその意味を知ると「何だ、それだけのことか」とちょっとがっかりさせられる。

描き込みは控えめでシンプルな絵柄。陰影はべったりと塗りつぶしてしまうことが多いけれども、黒と青の二色カラーで描かれているためごちゃごちゃと見づらくなることはない。絵柄についていちばん特徴的といえるのは、デフォルメされ抽象的になったキャラクターでもってかえって迫力を出す描き方をしているということだ。埒のあかない問答にうんざりさせられているキャラクターが憤怒の感情を募らせていくことを表現するにあたって、著者はキャラクターの顔に影を落としてほとんど塗りつぶし、出来の悪い版画のような単純化された表情でもってかえって内なる感情を表すということをやっている。また、主人公が若かった頃の狂気じみた銃撃戦を回想する場面で、同様に絵柄のデフォルメされた戯画的な性格を利用した描き方をしている。ペッピーノが二丁拳銃で自分の両隣の輩を撃っているコマでは、現実にはありえないほど三者が接近していて、なおかつ彼は両腕を胸の前で交差させている。つまり、右側の敵を左手に構えた銃で、左側の敵を右手に構えた銃で撃つというありえないことをやっている。これは銃撃戦の狂気と迫力を象徴的に表現するものであって、ある程度リアリスティックな絵柄では荒唐無稽に見えてしまってやりようがないに違いない。

装丁にはちょっと問題がある。表紙と背と裏表紙をなす一枚の紙で出来ている部分の接着が甘くて、数回読み返しただけで本体から剥がれてしまった。紙自体は厚くてごわごわしたものを使っているんだけれども、作りが脆い。

読んだ上でキャラクターの置かれた境遇について自分であれこれ考える分には決して深みのない漫画だとは言わないが、ただ純粋に読む分にはおもしろいとは言いがたい残念な漫画。

Rating
5/10