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おやすみプンプン 第1巻

浅野いにお『おやすみプンプン』第1巻:表紙
  • おやすみプンプン 第1巻
  • 著者: 浅野いにお
  • 出版社: 小学館
  • 発行日: 2007年8月8日
  • 判型: B6判
  • ISBN: 4091512186
  • 224ページ
  • 530円

レビュー

これは少年プンプンが両親の不和や同級生との初恋などの出来事を経験しながら成長していく様子をエキセントリックな手法を交えて描くストーリー漫画。自分の暮らしている世の中についての認識と自分の将来の夢、そして同級生の女の子に惹かれる気持ちとを素朴に関係付けてしまう主人公の意識のあり方に少年期ならではのリアリティを感じさせてくれるとてもおもしろい作品。

この漫画の真っ先に目を引く特徴は一部の登場人物たちのキャラクターデザインにある。主人公のプンプンとその家族はみな針金のように細い手足を持ち、頭から股下まで覆う大きな袋でも被っているかのような胴体をしている。言わば子供の落書きのように簡単で適当なデザインだ。ところがこのことは作品世界の中で特に変わったこととは受け止められてなくて、誰も彼らの姿を不思議に思わない。さらに身体の明白な物理的特徴の違いさえ意識されていない。例えば、プンプンが初恋の相手である愛子とキスをする場面で愛子はプンプンの背丈に合わせるようにしゃがんでいる。年頃の男子児童でそんなに背が低いということは考えられないけれども、それがおかしなことだとは誰も思わない。プンプンたちの容姿は当たり前のことのように受け入れられている。

プンプンは小学五年生なんだけれども、年の割には少し幼い子供として描かれている。ストーリーの序盤でプンプンの父親は夫婦喧嘩が過熱するあまり、母親に入院させるほどの怪我を負わせてしまう。警察沙汰にまで至った結果として父親が家に帰ってこないということを、同級生たちが噂話にでも聞いて知っている一方で、プンプンは現場の惨状をまのあたりにしているにもかかわらず事の意味がよくわかっていない。宿題として出された作文のテーマである将来の夢についてプンプンは初めは漠然とプロ野球選手になりたいと思っていたが、のちに人類の宇宙への移住を研究する学者になりたいというように考えが変わる。どちらも本人が本当にやりたいことではないというところが共通していて、プンプンには自己実現としての夢と他人の気を引くための好意とがまだはっきりと区別されていないということが見て取れる。

プンプンの幼さには単純に未熟として片付けられない側面もあって、そこが(まちがいなくこの主人公よりはずっと擦れた大人に違いない)多くの読者にとって新鮮でいじらしく感じられるところだ。父親から与えられたばかりの天体望遠鏡を元にノーベル賞受賞や宇宙移住の実現などという壮大な計画を思いついて夢中になっていることを荒唐無稽として読み飛ばすことが出来ないのは、その想像力の源が同級生愛子を想う気持ちにあるからだ。つまり、プンプンは年頃の男が異性の気を引こうとしてあれこれ工夫するのと同じことを宇宙規模の想像力でやっている。壮大だけれども、それぞれまったく現実的に実現する可能性がなく、互いに関連性もない想像を願望でもって強引に結び付けるところがユーモラスで、この得体の知れない落書きに等しい容姿の主人公の魅力にもなっている。

プンプンと愛子、そしてその他の友人たちはそれぞれの家庭環境を反映したキャラクターになっているけれども、その描かれ方が一元的な価値観に拠っていないところがとてもいい。プンプンの友人には父親が働くのをやめて飲んだくれているのを見かね、自らの手で殺すことさえ口にしてしまうような荒んだ子供がいる。いっぽう、プンプンは一年も無職の父親を憎むどころか母親以上に慕っている。夫婦喧嘩の顛末からして客観的に見て好感の持てそうにない父親の帰りを待ちわび、母親については「あまり好きではない」というように意外な表明をしている。愛子は母親の犠牲になっている可愛そうな子供なんだけれども、読者の全幅の好意を集めるようなキャラクターというわけでもない。子供らしいわがままや意固地な面を併せ持った、可愛らしくもあり、可愛げのないところもある両義的なキャラクターだ。

この漫画に登場する人物たちのなかにはプンプンのような変な恰好こそしていないものの、突然奇声を上げたり、挙動不審な振る舞いを見せる者が何人かいる。いずれもストーリーのなかで特に意味があるとも思えず、半ば作者の悪ふざけのようにも思える。真意のほどは正直言ってよくわからない。

話のすじはプンプンと愛子の関係の進展とは別に、ひょんなことからホラーじみた宝捜し的展開に移行して次巻に続いている。いかにも子供らしい好奇心によって、目的のための協力が仲間意識を強めていくエピソードであると同時に、不気味なところから作品のテーマに近づこうとしているとも言えるなかなか緊迫した引きになっている。

奇をてらった表現に目を奪われがちになるけれども、実際には子供というものがとてもよく活き活きと描かれているおもしろい漫画。

Rating
9/10
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これは国内の漫画について書いたkosame.orgのレビューのひとつで、2008年8月16日に公開されています。その他の漫画レビュー同じ年に書いた記事のアーカイブなどもご参照ください。

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