kosame.org

国内外の漫画を読んでレビューを書くウェブログ

The Arrival

The Arrival by Shaun Tan: Cover
  • The Arrival
  • Author: Shaun Tan
  • Publisher: Arthur A. Levine Books
  • Release: October 2007
  • Size: 30.5cm x 23cm
  • Format: Hardcover
  • ISBN: 0439895294
  • 128 pages
  • $19.99
  • Amazon.com

レビュー

著者はオーストラリア人で去年の作品。ここで取り上げるのは北米の出版社から最近刊行されたもの。イラスト集か絵本の類だろうと思って注文したんだけれども、実際に手に取って見てみると漫画と呼んでもよさそうに思える。テキストは一切ないが絵だけで伝える一貫したストーリーがあってちゃんと漫画として読めてしまう。オリジナル版はどうか知らないが、この北米版の裏表紙に記載された賛辞のリストには著名な漫画家たちが名を連ねている。

これは端的に言えば移民の話ということになる。とある事情で住んでいた土地を離れる必要に迫られた一家の主が、新しい住居と職を探すべく未知の外国へ向けて奥さんと娘に先んじて独り旅立つところから物語は始まる。中心的に描かれるモチーフは未知の世界での驚きや困惑、そして順応や習熟であって、この作品がどれだけ奇妙な動植物に溢れた幻想的な世界を舞台にしていても、結局のところは移民の話だと言える所以だ。著者は部分のクローズアップから徐々に引いていって全体の眺望へ至る視点の移動でもって、こういったモチーフを効果的に表現している。

人物は近接した描写ではまるで写真から起こしたかのように微妙な感情が読み取れる細密さでもって描かれていてすごい。ただ、リアルなことはリアルなんだけれどもこのリアルさが曲者でちょっとした違和感を覚えるところもある。市場へ食料品を求めにやってきた主人公を助けてくれる親切な親子が登場するんだけれども、この親子はあまりにも表情が豊か過ぎてまるで商業広告でよく見られるようなイメージを想起させる。つまり滋養やおいしさを強調するためにやたら笑顔を振り撒くような類の……。テキストがないために具体的な会話の内容がわからないことや、移民同士の互助精神のようなものも勘案すべきなのかもしれないが、それにしても初対面の人間に対して不自然に感情が迸りすぎていて何だか主人公を騙そうとして接触を試みている詐欺師の親子のようにも思えてしまう。これはひょっとしたら人物を描くにあたって実際に模写した写真がいくつもあって、それぞれの被写体の持つ異なったコンテクストを一つの作品の中にいっしょにしてしまっていることによるんじゃないだろうか。つまり、読者がその元の被写体のコンテクストを意識せざるを得ないほど緻密に再現されていることがかえってこのような違和感の元になっているのではないかと思える。

主人公の訪れる未知の世界はどの景観や街並みにも不思議な建築物やモニュメントのような物体が林立し、目を飽きさせない。道路の真ん中に聳え立つ円錐や、幾何学的な統一性なしに取り付けられた窓や出入り口など、およそ合理性や効率性を無視したもの。高層建築の屋上に据えられた巨大な壷や茶碗など意味不明のもの。得体の知れない動力で空を漂う巨大な飛行船のように力学的な法則を超越したものなどなど。要するにおもちゃで作った街のように全体を子供にデザインさせたんじゃないかと思えるようなデタラメさがある。ただし、それが混乱を来たすことなくその中で人びとがあたりまえのように生活していることがまた奇妙な感覚をもたらしてもいる。

オリジナルの出版元である Hachette Livre Australiaのサイト に試し読みのページがあって抜粋を読むことが出来る。

追記

2008-10-04

元は雑記のカテゴリーに分類したエントリだったんだけれども、漫画として読める作品ならそう扱っていいだろうと思ったので外国漫画のカテゴリーに分類しなおした。

Rating
9/10