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The Living and the Dead

The Living and the Dead by Jason: Cover
  • The Living and the Dead
  • Author: Jason
  • Publisher: Fantagraphics
  • Release: December 2006
  • Size: 25.5cm x 18cm
  • Format: Softcover
  • ISBN: 1560977949
  • 48 pages
  • $9.95
  • Amazon.com

レビュー

Død og levende というノルウェーの漫画の英訳版。誤解を恐れずに言えばゾンビ漫画ということになるけれども、恐怖や残虐描写を売り物にした内容ではない。社会の下層でしがない仕事に明け暮れる男と女の出会いを、前後して起こった予期せぬゾンビの来襲と重ね合わせ、その脱出劇のさなかに芽生えたふたりの愛情を穏やかなユーモアを交えて描いた短編。

ゾンビの出現は墓地に落下した隕石が原因として描かれている。おそらくは隕石に含まれていた細菌か何かが地中の死体をゾンビとして甦らせ、そのゾンビと接触した人間もまたゾンビにさせられるといったふうにして被害は広がっていく。人びとにとってゾンビの脅威は分析や対策などする暇もなく訪れ、抵抗も空しく犠牲者は着実に増えていってしまう。このような偶発的な超自然現象によってもたらされた有無を言わせぬ展開は、主人公の男女ふたりにとって最初で最後の二人きりの時間である束の間の逃避行をロマンチックなものにすると同時に、究極的な覚悟を迫らせることによってそれぞれの相手に対する想いを炙り出させることにもなっている。また、ゾンビは人間よりも知能が低くて動きが鈍く、痛みも感じないといった特徴に基づくベタなユーモアがこの作品にいくらか笑える場面を提供している。ただ、この漫画の中で見られるユーモアには、客席からは一目瞭然だけれども舞台で向かい合っている当人には何が起こっているのかわからないといった舞台と客席の位置関係を前提にしたコントのようなものがあって、面白くないとは言わないがかなり陳腐というか古臭く感じる。

登場人物はすべて頭部が犬や鳥などの獣として描かれているのが特徴で、やせ細った体躯と生気のない虚ろな容貌は長いあいだ不当な境遇で飼われることに慣れたペットのようだ。いずれにせよ、ゾンビが人びとを襲って喰らうといったグロテスクでショッキングな出来事の見た目の激しさを抑制して物語を淡淡と繰り広げていく上で、こういった特徴が役立っている。ただ、見返しの部分に載っているこの著者のほかの本の表紙を一瞥するだけでもわかるように、キャラクターデザインはいつもこれと同じものでもって描いているようなので、特にこの漫画のために考えられたものではないんだろうと思う。

頭が動物ということよりもっと重要なのはミニマリズム的なスタイルだ。まず、一つにはフキダシが一切使われていない。効果音や擬音は除き、ほぼすべての会話のテキストは通常の漫画が展開する合間に挿まれた真っ暗な背景のコマに載せて伝えるという、無声映画でやるような手法を採っている。ただし、それはテキストによる説明なしにはわかりづらい場面でどういうやり取りがなされているかを読者に理解させるために必要最低限のものとして便宜的に用いられているに過ぎない。ストーリーの上で特に意味を持つ重要な場面では登場人物に直接に心情を述べさせるような安直なことを一切せずにあくまで絵だけでもって悟らせている。もう一つにはあえて変化に乏しい表情でもって心理描写をしているということがある。この漫画の登場人物たちはみな単純にデフォルメされた動物の顔で描かれているけれども、特に主人公の男女は目が輪郭を単純な線でつないだだけの楕円形で済まされていて、瞳が一切描き込まれていない。したがって、常に何かぼんやりとして無気力な印象を与えがちな顔つきということになるけれども、もちろんそれはあくまで著者によるスタイルの選択の結果であって、この漫画の登場人物たちがそのような性格や気分の持ち主として存在しているわけではない。ゾンビに遭遇すれば驚き、慌てふためいて逃げようと試みる。襲われれば苦痛に顔をゆがめる。決して無関心でも無感情でもない。そのため、読者は常に多かれ少なかれ表面的に見えている以上の何かが心の裡にあることを想像しながら読み進めることになる。こういった特徴はクライマックスの場面で最大限に活かされている。話の中心にあるふたりの男女がそれぞれ自分の置かれた条件を意識し、選択を迫られるくだりに至っても著者は言葉に頼ることなく、またこの虚ろな目に表情を浮かばせることもしない。ただ、その虚ろな目つきに対してそれまで以上に読者の注意を引きつけてみせるだけ。いろいろ複雑に描き込んで何かを伝えようとするのではなく、何も描かれていないことを強調することで逆に読者に想像させている。

ふたりの置かれた絶望的な状況からは悲恋の物語として終わるかのように予感させるけれども、実はちょっとしたひねりがある。悲しい結末ではないが、ハッピーエンドでもない。それまで直接的な叙情性の露出を控えて展開してきたにもかかわらず、状況は悲劇的になるいっぽう。これは結末に一気に感動を用意しているのかと思いきや、意外な落ちが待っている。「え?そんな終わり方でいいの?」とちょっと驚かせるこのとぼけたユーモアが好きだ。

まあまあ面白い漫画。

Rating
6/10
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