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The Killer #2 Long Fire Part Two

The Killer #2 Long Fire Part Two: Cover
  • The Killer #2 Long Fire Part Two
  • Author: Luc Jacamon & Matz
  • Publisher: Archaia Studios Press
  • Release: December 2006
  • Size: 26cm x 17.5cm
  • Format: Softcover
  • ISBN: 1932386319
  • 32 pages
  • $3.95

レビュー

何日待っても姿を現さない標的にいくらか手持ち無沙汰な感も見せた#1から一転して、主人公に起こった異変とそれに伴う急展開を追う内容。冷酷な殺し屋を自称する彼は、実際にはそうはっきり割り切ることができるほど単純な男ではなかった。自分自身に向けられた内省的な視点がみるみるうちに意識を侵食していく過程がスリリングでおもしろい。オリジナルの仏語版ではこれが第1巻の後半部だっただけのことはあって、中途半端な印象の締め方だった#1とは違い、引きもちゃんとしている。

#1では予兆に過ぎなかった主人公の殺し屋としての資質の危うさがここではっきり露呈する。彼はあくまで標的を狙う側の立場。警察に追われて逃げ隠れしているわけでもなく、仕事を邪魔するものは何もない。ただ、安全な場所から狙撃の機会を待てばいいはずなのに次第に憔悴していってしまう。彼に起こった異変は急激で意表を突くけれども、これまで独白と回想ばかり重ねてきた甲斐があって決して不自然ではなく納得のいくものになっている。ここで彼は殺し屋稼業を営むうえでもっとも大変な部分として孤独ということを挙げている。これまでさんざん自分がどれだけこの仕事に適しているか、どれだけうまくやってきたかということを吹聴してきた割には意外なほど率直に実際の真情を吐露している。しかし、現代社会において孤独であるということは何も彼に限ったことではないし、孤独に苛まれた人間が誰しも彼のような異変を呈するわけでもない。著者は読者に対してこの主人公の異変の根拠を人間性一般に求めるほかないような描き方をしている。というか、そういうふうに読まれるべきだと思う。この主人公が人殺しに耐えるには弱い心の持ち主だったとか、何らかの精神の病を患っていたとか、彼の背負っている個別的な特徴に還元するのは違うだろうと思う。 人目を憚って殺人を重ね、なおかつ他者への無慈悲や無関心を装った超然的な拒絶を貫く生活がかえって彼自身の疎外感を募らせているというわけだ。人間は何にだってなれる粘土のような可塑的な存在かもしれないが、その内奥には硬い何かが、人間性とでも呼ぶほかない何かがある。そう言いたげなキャラクター描写だ。とは言っても、ここでは安っぽい感傷的なヒューマニズムに溺れたりはしない。彼はこれまでに殺してきた被害者やその家族への同情など微塵も見せることはない。それもまたとてもいいところだ。

プロットのうえでは彼自身の不用意なミスから絶体絶命の危機に追い込まれた状態で#3に続いている。この先彼がどうなるかはまだわからない。大金を貯めこんで異国の地で余生を過ごすという当初の目的に執着するのかもしれないし、ひょっとしたら改悛して罪を贖うのかもしれない。いずれにせよ、ここまで来てもまだ全体の五分の一に過ぎないということを思うと、彼は今後長い茨の道を歩むことになるに違いない。そう予感させる引きだ。

Matzによる作画も素晴らしい。ストーリー上のハイライトではクローズアップに耐える粗くて力強い描線が主人公の鬼気迫る狂態をよく表している。フルカラーで彩られたページは場面によって基調となる色を替えて雰囲気を出しており、また地下道の電灯や暗い屋内で開いた冷蔵庫などから浴びる薄明かりを強調する衣服の皺もたびたび徹底的に描き込まれていて、陰鬱な主人公の心情を背景によく映えている。

かなりおもしろい漫画。

補足

なんか6月に#1から#4までを収録したハードカバーの第1巻が出ることになってる。#1の表紙が収録されなかったら残念。

この漫画を元に作成されたFlashアニメがあってタダで見ることができる。この英語版の#1と#2にあたるけれども、比較するとテキストの分量が少なく、訳文もけっこう異なっている。Luc Jacamon本人が翻訳をしたこの英語版と違って、Flashのほうは別の人が訳しているからということなのかも知れない。ただ漫画よりもムードたっぷりで、また明らかに漫画にない部分も描き足してあり、とてもよくできていると思う。

Rating
9/10