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国内外の漫画を読んでレビューを書くウェブログ

年末は適当にお茶を濁したい

今年読んでおもしろかったものについて短評を。

国内の漫画

  1. 幸村誠 ヴィンランド・サガ 第3巻
    幸村誠『ヴィンランド・サガ』第3巻

    ヴァイキング漫画とはいえ、ただの暴漢では主人公は務まらない。殺戮や略奪などやりたい放題に暴れるヴァイキングの群の中に身を置きながらも、常に自分の本願が念頭にあるトルフィンは冷めた態度で饗宴に交じることもない。トルフィンが父親の仇を討つために仕方なくその怨敵本人のために仕事を続けているという独特の設定を活かして、主人公に汚れ役をさせることなく、なおかつヴァイキングらしい残虐な振る舞いを描くことをためらわない内容になっている。主人公のほかにもアシェラッドやトルケルなど主だった登場人物たちの根本的な動機の違いが個性になっていておもしろい。

  2. 平本アキラ 俺と悪魔のブルーズ 第3巻
    平本アキラ『俺と悪魔のブルーズ』第3巻

    第2巻がサスペンスならこの巻は猟奇ホラーとでも言うべき気色悪い展開に。小さな田舎町の有力者が治外法権のような権力を持っていて、腹一つで人の命さえどうにでもできてしまうという環境が、部下同士で互いを蹴落とそうとしのぎを削る人間関係を生み出していてスリリングでおもしろい。現在とは人種差別についての意識が度を越して異なることに基づいた痛烈な風刺ネタも傑作。

  3. 倉島圭 24のひとみ 第1巻
    倉島圭『24のひとみ』第1巻

    ベタな掛け合い漫才のように一本道に展開していく単純な漫画なんだけれども、一般に学園物の登場人物である教師や生徒に多かれ少なかれ抱いてしまう素朴な純真さを逆手に取った毒舌的なギャグがおもしろい。絵は単純な線で描かれていて登場人物ごとの表情の描き分けも決して上手いとは言えず、読んでいる最中にこのコマの背景はもっと緻密な絵の描ける人だったらより効果的だっただろうになどと思ってしまうこともしばしば。ただ、普通は恋愛物などの心理ドラマを表現するのに使われるような、人物の錯綜した心理をへんちくりんなメタファーでもって描く際の構図だけは凝っていてとてもおもしろい。

諸外国の漫画

  1. The Comic Book Holocaust by Johnny Ryan
    The Comic Book Holocaust by Johnny Ryan

    Dick TracyPeanuts などの古典からスーパーヒーローコミック、インディーコミック、そして日本の漫画まで種種雑多な漫画を対象にしたパロディ作品集。下ネタによるパロディが多いけれども、きわどい人種差別ネタや宗教ネタも含んでいてよくこんなものを大っぴらに出版できたなと驚いた。また、著者自身が作品の中に登場する漫画についても遠慮なく下ネタまみれにしていて、例えばジョー・サッコ(スペル違い)は自分の玉袋から独占インタビューの要望を受けて小躍りするなんてネタを描かれちゃってるんだけど……これ訴えられたらどうすんのと人事ながら心配してしまう。ジョー・サッコは寛容で済むかもしれないが宗教ネタはかなりやぱい。木を隠すなら森へということで、良識あるうるさ型の人びとは最初の数ページをめくっただけで相手にする気にならないということなのかもしれない。東スポのいいかげんな記事がまともに相手にされないのと似たようなものなのかもしれない。よく知らないけど。

  2. Chicken with Plums by Marjane Satrapi
    Chicken with Plums by Marjane Satrapi

    Poulet aux prunes の英訳版。ペルセポリス は僕が今までに読んだ漫画の中でも間違いなく十本の指に入る大傑作で、その同じ著者による作品ということで期待大で読んだんだけれども……まあ期待しすぎたのかもしれない。読者を楽しませるために描かれたエンターテイメントというよりは、著者の大叔父へ向けたオマージュとしての意味合いのほうが強いんじゃないかと思えた。身もフタもない言い方をすると著者が想像で付け加えたに違いないオマージュ的なフィクションの部分はちょっと陳腐でありきたり。それでもこの時代のイランに純粋に音楽家として生きることを選んだ頑固な人間のどうにもならない宿命がノンフィクションとして含まれていてそこが胸を打つところ。

  3. Borrowed Time Volume 1 by Neal Shaffer and Joe Infurnari
    Borrowed Time Volume 1 by Neal Shaffer and Joe Infurnari

    これは事前に内容についてよく知らないまま手に取ったのが幸いしてとてもおもしろく読めた。意味深な題名と主人公カップルのやけに仲睦まじい描写からは二人の過去に隠された何かから将来の破局にでも至る恋愛ドラマ的展開が予想され、また主人公がバミューダトライアングルに取材に行くことがわかってからはこれは海洋冒険譚になるんだろうかとも思わせ、作品のジャンルがはっきりしない序盤の展開に想像力が掻き立てられて興奮しながら読んだ。とはいっても、後で何が起こるかわかってから再読すると別に取り立ててすごい漫画じゃないよなあと思える。とりあえず続きが気にはなっている。