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俺と悪魔のブルーズ 第2巻

平本アキラ『俺と悪魔のブルーズ』第2巻
  • 俺と悪魔のブルーズ 第2巻
  • 著者: 平本アキラ
  • 出版社: 講談社
  • 発行日: 2005年8月23日
  • 判型: B6判
  • ISBN: 4063143880
  • 279ページ
  • 699円
  • Amazon.co.jp

レビュー

この第2巻では前巻と趣を変え、相次ぐサスペンスが終始息もつかせぬ緊張を漲らせている。家族を捨てて放浪の旅に出た主人公RJは、程なくして見知らぬ白人クライドにより連れ去られてしまった。この巻では、クライドがRJに手伝わせて命からがらやりおおせた危険な仕事の顛末に加えて、そののちにとある田舎町で囚われの身となったRJと、その町のバーに探りを入れるべく身元を偽って潜り込んだクライドとの数奇な体験を描いている。

作品の舞台となっている1920年代末から30年代初めにかけてのアメリカでは禁酒法が施行されていて、それからまた黒人差別が横行していたという背景があるわけなんだけれども、この巻ではその史実に基づいた二つの設定を少しひねることでスタンリー・O・マクドナルドという独特のキャラクターを生み出している。マクドナルドの考え方は遵法や法の拡大解釈などではなく、要は「俺が法律だ」とでもいうべきもので、彼は町の保安官でさえ逆らえないほどの専制君主として振舞っている。その剛直で歪んだ精神が、人びとの飲酒による堕落を食い止めるといった、ある意味で高潔な志と、見世物としてのリンチに何らためらわないどころか、それを誇示しさえする嗜虐的な趣味とをうまく一つの人格の中で結びつけている。マクドナルドが盲目で発作持ちであるという身体的特徴は彼を弱者にするどころか、むしろその強情で乱暴な気質にたがを嵌めて際立たせるがごとく現れていて、迫力を視覚的に演出する上で大いに役立っている。

前巻の終盤になって登場したばかりのクライドは、この巻では準主役の扱いで出突っ張りになる。クライドは人殺しも厭わないギャングだが筋金入りのタフガイというわけでもなく、心理面で脆いところも持ち合わせている。そういったキャラクター造型が読者に対して彼の肝の据わりどころを見定めさせるように描かれ、関心を引っ張っていく。クライドは決してRJの親友でも何でもなく、人種平等などといった進歩思想の持ち主でもない。自分の仕事に都合がいいからRJを連れまわしているに過ぎないんだけれども、少なくとも表面的には物腰は穏やかでRJに対する態度も気さくだ。その表面的には気さくに振舞っているということが、RJにとっては強持てのキャラクターとして時には必要以上の不安や緊張を煽り、前半の展開を面白く読ませている。そして、そのようにRJにとって畏怖の対象だったクライドは、後半では打って変わって、偽った身元の露呈を恐れなければいけない立場に置かれることになり、ギャングらしい凄みを利かせる振る舞いから内心の密かな狼狽へと揺れ動く心情が幅を持たせて、人間味のあるリアルなキャラクターになっている。

この巻のストーリーは伝説のブルースギタリストの生涯を題材にした音楽漫画というよりは、むしろ暴力漫画とでも言ったほうが近い内容だ。実際、銃による殺人や強盗、拉致やリンチなどの表現を多く含んでいるけれども、ただのセンセーショナリズムとは違う。のちの歴史に名を残すことになるギャングを登場させながら、一般市民であるアメリカ南部の一部の白人たちもまた負けず劣らず暴力的である様子を描くことで、今の時代ではちょっと想像しにくい集団リンチによる日常的な殺人という究極的な暴力に恐ろしい説得力を持たせている。

プロットはいくつかの重要な節目で、RJの体に起こった異変をきっかけとして本人の思惑とは裏腹の方向へと突き動かされている。RJが旅立ちの時に連れていたアイクはクライドの登場と前後して姿を消してしまい、行方知れずのままなんだけれども、どうやらこの巻を通じてRJの体にたびたび起こる異変が相棒の失踪と無関係ではないように推測させる描き方になっている。そしてその異変はRJ本人をも驚かせるほどの卓越したギター演奏の根拠になると同時に、本人の意図にはおかまいなしに現れることによる不利益の原因にもなっている。優れた才能が魂と引き換えに得たものであるという実際のクロスロード伝説に由来する設定は、ここでは言ってみれば呪いのようなものとして踏まえられているわけだ。本来なら荒唐無稽で、ただプロットを恣意的に展開するためのものと受け取られかねないこの奇妙な現象が最大限に利用され、無実で純朴な主人公を窮地に追いやって話をとても面白くさせている。

作画はさまざまなスタイルが適切に使い分けられていてとても効果的だ。キャラクターの表情、特に眼差しのアップがコマを占め、読者に緊張を強いるような場面では写実的なスタイルで描き、RJにとってクライドの不気味さを表現する場合には太い筆で荒っぽく描き殴った水彩画のようなタッチでといったように。酒瓶やサングラスに反射した物影、勢いよく注がれるグラスなど微妙な光の表現が必要とされるところでは、不自然さを感じさせないトーンワークが見事で思わず息を呑むリアリティがある。リアルな等身の大人の登場人物たちの中でひときわ目立つ存在となっているトビーという子供は、いかにも漫画的にデフォルメされた目の大きなキャラクターデザインでもって描かれているが、これがちょっとぎこちない。コマによって目鼻口のバランスが取れていなかったり、小太りだったりそうでなかったりとまちまちだ。まあ絵についてケチがつくのはそれくらい。

かなり面白い漫画。

Rating
9/10