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俺と悪魔のブルーズ 第1巻

平本アキラ『俺と悪魔のブルーズ』第1巻
  • 俺と悪魔のブルーズ 第1巻
  • 著者: 平本アキラ
  • 出版社: 講談社
  • 発行日: 2005年1月21日
  • 判型: B6判
  • ISBN: 4063143651
  • 255ページ
  • 666円
  • Amazon.co.jp

レビュー

俺と悪魔のブルーズは1920年代末のアメリカ南部を舞台に、十字路(クロスロード)で悪魔と取り引きして才能を得たという伝説を持つブルースギタリストのロバート・ジョンソンをモデルにした漫画。RJはクロスロード伝説の通りにブルーズマンとしての才能を手に入れるが、引き換えにかけがえのない代償を払う羽目になり、その結果旅立ちを決意するに到る。そして思わぬトラブルに出くわすところまでがこの第1巻のストーリー。

主人公RJはもうじき父親になる予定の黒人青年。本来は一家を支える働き手として尊敬されていいに違いないが、同じく農夫として働く家族の中では姉や奥さんにまったく頭が上がらない。ブルースへ傾倒し、自らブルーズマンとして成功することを夢見ているが、腕はまったく話にならないレベル。いずれにせよ、うだつの上がらない男として描かれている。この作品が公民権運動どころかまだ第二次大戦前のアメリカ南部を舞台にしている以上、プランテーションでの小作農の労働は相当過酷なものだったに違いないが、ここでは淡々と穏やかに、画家が好んで絵にでも描きそうな情景として描かれている。対照的に、ジューク・ジョイントと呼ばれる酒場でのライブ演奏は喧騒と猥雑さが入り混じって非常に活気に満ちたものになっている。そして、どちらの場においてもRJはあまりパッとしない。決して不真面目ではないが報われず、冴えない男として笑いのネタになっている。

この巻のクライマックスであるクロスロード伝説の出来事は、時系列が錯綜してややこしく、正直言って正確には良くわからない。ただ、実在した人物がモデルになっていて、ある程度はフィクションに事実を反映させていることが、わかりづらくそして部分的には曖昧に描かざるを得なかったということの理由なんじゃないかとも推測できる。RJは取り返しのつかない過ちを犯した罪を責められる立場である一方、被害者でもある。悪魔と取り引きといっても、この漫画で描かれるクロスロード伝説は結果をよくよく知らされた上での合意に基づくものではない。もし後の結果をすべて知らされた上で悪魔と取り引きをしたのならRJは本当のろくでなしということになってしまう。実際には、核心の場面はあとから夢うつつの回想として描かれ、その場に臨んだRJ本人の意思のほどは明らかにされていない。悪魔に魂を売って何かを手に入れるということは常に例え話でしかないが、「魂を売る」ということはよほどの大事であることには違いない。RJに本当にそこまでの覚悟があったとは考えにくい。この漫画の序盤は家族や友人たちとの日常生活を紹介しつつ、RJがブルーズへの傾倒を深めていく様子が話の大きな筋になっているが、それでもRJを「悪魔に魂を売る」までに駆り立てる動機としては弱い。話の筋の展開の結果というより、そこに唐突に起こったアクシデントといったほうが近い。RJの本意が曖昧にぼかされているのが少し残念なところだ。

終盤でRJと遭遇する白人は誰もが知ってる有名な人物で、フィクションに登場するなら主役を張っていいはずの大物。このキャラクターの登場の仕方は実はかなり強引で、RJが彼とここで遭遇したということもストーリーにとって都合のいい偶然に過ぎないんだけれども、小道具をうまく使い、読者の誰もが知ってる将来の衝撃的なエピソードを前もって挿入することで、わざとらしいどころかむしろ逆に二人がこれからいったいどんな関係になっていくのか期待を持たせるいい導入の仕方になっている。

絵柄は場面にあわせてさまざまなスタイルが使い分けられていてとても効果的だ。キャラクターデザインについても、肖像画のように写実的なものからデフォルメされたコミカルなものまで臨機応変。簡略に描かれている場合でも目の中の瞳をくっきりと、目蓋や目じりなどを立体的に描くことが多く、セリフがなくとも目つきで感情を充分に表している。

そこそこ面白い漫画。

Rating
7/10