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The Clouds Above

The Clouds Above by Jordan Crane : Cover
  • The Clouds Above
  • Author: Jordan Crane
  • Publisher: Fantagraphics Books
  • Release: September 2005
  • Size: 15.8cm x 17.3cm
  • Format: Hardcover
  • ISBN: 1560976276
  • 216 pages
  • $18.95
  • Amazon.com

レビュー

これまでいくつか英語の漫画を買って読んでみた。読み切れずに挫折したものや読むことは読めたけどわけのわからないものなどあったなかで、これはテキストのほぼすべてが理解でき、なおかつそれなりに楽しめたのでレビューを書いてみることにした。著者のJordan Craneて人がこれまでどんな作品を描いてきたのか、どんな評価を受けているのかなどまったく予備知識のないまま表紙買いしてみたところそこそこの当たりだった。

学校の授業に遅刻してしまった少年サイモンは教師に叱られるのが嫌で校舎の屋上に逃げ込む。そこで見つけた壊れたドアを開いてみるとなぜか向こう側に階段が伸びていて空の上へ続いている。その階段を登った先には……。 The Clouds Above は少年サイモンと猫のジャックが雲の上で体験したほんのひとときの出来事を綴った空想冒険譚。

この漫画はどのページにも中央に正方形の大きなコマが一つだけ置かれているシンプルなスタイル。全ページがフルカラーで描かれているんだけれども、それほどたくさんの色を使っているわけではないし、自然の色を忠実に再現しようとしているわけでもない。例えば、普通の雲はピンク、嵐のなかの凶暴な雲は深緑で塗るといった現実にはありえない配色だ。それでも落ち着いた感じのパステルカラーの彩色で決してけばけばしくない印象になっている。また、場面の切り替わりに合わせて微妙に変化する明るさがそれぞれの場の雰囲気を醸し出していてとてもいい感じだ。

主人公のサイモンは好奇心旺盛で勇気のある少年。赤い大きな本を常に脇に抱えて持ち歩き、片時も手放さないため、その姿がほとんどトレードマークのように思えてくる。表紙に “P・Q” とだけ見えて、いったい何の略語なんだろうと初めは不思議に思った。あとのほうでこの本が役に立つ機会が描かれてあってそこで気がついたんだけど、これは百科事典のPからQの項目ということに違いない。つまり、P・QじゃなくてP-Qというわけ。というか、そもそも中黒は英語じゃ使わないよなとあとから気づいた。この漫画の中ではなぜサイモンが百科事典を持ち歩いているのかまったく説明がないので、これは彼の好奇心の象徴的な表現なんだろうと思う。あるいは、もっと深読みするなら、アルファベット順に編集された百科事典の最初の巻から読み始めて今現在はPからQにわたる巻を読んでいるということなのかもしれない。同じ著者がこれ以前に発表した the Short Cut という作品にもサイモンとジャックの二人が登場するようなのでひょっとしたら何か根拠があるのかもしれないが、そっちはまだ読んでないんでわからない。

ジャックはヒョロヒョロと長いしっぽを持つ大きな猫。当たり前のように人間の言葉を話し、サイモンのペットというよりは友達といった感じの存在。臆病で不平不満をこぼしがち、とぼけた顔で軽口を叩くユーモラスな相棒。

この漫画の一番の面白さはこの主役二人の軽妙な会話にあると思う。英語で二重の意味を持つ単語を使ったまぜっかえしや、臆病なくせにひとたび安全とわかると急に平然として気が大きくなったりする猫のジャックの性格を生かしたやりとりが面白い。読み終わった後で、もっと二人の冒険を見てみたいというよりは二人の会話を聞いてみたいと思ったのが自分の正直な感想。

全体としてはそれなりに面白かったと言いたいけれども、物足りなく感じる部分もかなりある。この漫画は、動物が言葉を話したり、雲の上まで続く階段があったりといったファンタジー的要素を持つ一方で、困っている者に出遭えば助けてやり、危機的状況に陥ればそれを何とかして切り抜けるというそれなりに起伏のあるストーリーを持っているんだけれども、どちらの点においてもそれほど凝ってるとは言いがたい。まず、雲の上の世界で描かれる出来事やそこで出遭うキャラクターたちはそれほど独創的とは言えない。主役の二人を除く主な脇役たちは擬人化されていることを除けば、善人と悪人に分類出来てしまう単純なキャラクターだ。主人公サイモンが持っていた百科事典を役に立たせて話を進めることが出来たのは、その百科事典にPからQの項目が収録されていたからであり、つまりただの偶然でしかない。それから、些細なことで腹を立てた猫のジャックをたしなめたサイモンが、雲の上での冒険の後ではジャックの猫なりのプライドと言うものに理解を示して同じ理由で一緒になって反発する場面があって、要するに二人の関係が深まる描写もあるんだけれども、じゃあそれをもってこの漫画を少年と猫の友情物語と呼ぶことができるほどの内容かというとそれほどのもんではない。さらに、主役の二人は彼らを襲った絶体絶命の危機を「まんじゅうこわい」ネタでこともなく切り抜けてしまう……。いろんな意味であっさりし過ぎていてもっとこだわりを見せてくれてもよさそうに思える。結局のところ、ストーリー性よりも色彩が売りの漫画だといっていいと思う。

装丁は綺麗なハードカバー。表紙には頭に本をかぶせて雨を凌ぎつつ階段を登るサイモンとジャックが描かれていてとても可愛らしい。カバー付きの豪華限定版もあるんだけど表紙の絵はこっちの通常版のほうが好きだ。

そこそこ面白い漫画。

Rating
7/10